図●IEEE 802.11nで使われるMIMOの仕組みと最大伝送速度
図●IEEE 802.11nで使われるMIMOの仕組みと最大伝送速度
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 無線LANの高速通信規格IEEE 802.11n(以下11n)は、最大で600Mビット/秒の伝送速度を実現する。従来規格の最大伝送速度はIEEE 802.11の2Mビット/秒から、11bで11Mビット/秒、11aと11gで54Mビット/秒へと高速化してきた。11nでは11a/gに比べて大幅に速くなった。利用する周波数帯域は2.4GHz帯と5GHz帯である。

 11nには高速化のための様々な機能が盛り込まれている。そのなかでも代表的なのが、(1)MIMO、(2)チャネルボンディング、(3)フレームアグリゲーション――の三つだ。

 (1)のMIMOはMultiple Input(多入力)、Multiple Output(多出力)の略で、複数のアンテナでデータを送受信する技術。送信データを分割して複数のアンテナに割り振り、同時に送り出す仕組みだ。各アンテナが伝送するデータは「ストリーム」と呼ぶ。複数のアンテナから異なるストリームを同時並行で送り出し、空間的に異なる伝送路で受信側に届ける技術は「SDM」(空間分割多重)と呼ばれる。ストリーム数が2本なら伝送速度は理論的に2倍、3本なら3倍になる。規格上は4本までストリームを増やせるが、2012年第1四半期時点の製品は3本までのものだ。

 (2)のチャネルボンディングは隣り合うチャネルを束ねて使う技術。11nでは変調方式にOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を採用している。OFDMでは一つのチャネルを細かいサブキャリアー(搬送波)に分割し、各サブキャリアーに送信データを載せて運ぶ。チャネルボンディングで複数のチャネルを束ねると、データを運ぶサブキャリアーの数が増え、多くのデータを一度に送れるようになる。例えば1チャネル(約20MHz幅)を使い、MIMOで3ストリームの通信を実現した場合は、理論上の最大伝送速度が216.7Mビット/秒になる。MIMOは3ストリームのまま、チャネルボンディングで2チャネルを使えば、理論上は2倍の450Mビット/秒で通信できる(図)。

 (3)のフレームアグリゲーションは、複数のフレームをまとめて送る技術。フレームを個別に送ると、フレームごとに別々のヘッダーが必要だ。フレームアグリゲーションによって複数のフレームを一つに集約すると、ヘッダーも一つになる。仕様上で必要となる待ち時間や、受信側が返す確認応答も集約されて、効率的にデータを送れるようになる。