文・西澤 夏樹(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 コンサルタント)

 衛星携帯電話とは、人工衛星を介して通信を行う携帯電話機またはそのサービスのことです。陸上の無線基地局を使った通常の携帯電話ではカバーできない山間部や海上などの広いエリアで利用できるのが大きな利点です。また、通信経路に衛星を使うことから地震や津波などの地上における災害の影響を受けにくく、東日本大震災以降、災害時の非常用通信手段として自治体や民間企業で導入が進んでいます。

 現在、日本国内で利用できる衛星携帯電話サービスは、「インマルサット」「ワイドスター」「イリジウム」の3種類に限定されており、KDDIやNTTドコモなど日本国内の無線局の免許を受けた電気通信事業者によって提供されています。

 これらのサービスは、衛星を利用した音声通話およびデータ通信を提供するという点では同じですが、人工衛星の特性や対応端末の違いによって、利用エリアや機能がそれぞれ異なります。

全世界で使えるインマルサット

 インマルサットは、英国ロンドンに本部を置くインマルサット社が開発した衛星携帯電話サービスです。日本ではKDDI、日本デジコム、JSAT MOBILE Communicationsを通じて提供されています。赤道上空約3万6000kmに配置された3~4機の静止衛星(地上から見るといつも同じ位置に止まって見える衛星)を利用し、北極と南極を除くほぼ全世界での通信を可能にしています。

 インマルサットを代表するサービスである「インマルサットBGAN(Broadband Global Area Network)」は、音声通話はもちろん、最大492kビット/秒のデータ通信機能を活用してビデオ伝送やテレビ会議なども実現できます。実際に使用したい時には、ビジネスバック大のBGAN端末と呼ばれる可搬端末を衛星に向けて設置し、ハンドセットまたはPCを接続して通信します(図1)。

図1●インマルサットBGANサービスのネットワークイメージ
図1●インマルサットBGANサービスのネットワークイメージ
出典:KDDIのインマルサットBGAN紹介ページを基に作成

 インマルサットBGANの場合、最も安いモデルであれば38万8500円(税込)から手に入れることができます。料金に関してはKDDIを例にとると、最も安い月額基本料5000円のプランの場合、音声通話は6秒ごとに17円から、データ通信は1Kバイトごとに0.85円となります。また、ショートメッセージは1回75円です。