文・濱田 大器(NTTデータ経営研究所 ソーシャルイノベーション・コンサルティング本部 マネージャー)

 地震などの災害は突然発生し、予知できた場合でも実際に災害が発生するまでの時間が極めて短いことが少なくありません。そこで国民が対処できる時間を少しでも確保するために、迅速に情報を伝達する必要があります。同様に、万が一外国から攻撃を受けた場合(例えば弾道ミサイルが発射された)なども、迅速な情報伝達が不可欠です。

 これまで、国民に向けて迅速に情報伝達を行う手段(警報)としては、市町村防災行政無線が中心的な役割を担っていました。その名の通り各市町村によって整備が進められており、現在では約8割の市町村で整備されています。

 また近年では、自治体間を結ぶ「総合行政ネットワーク(LGWAN)」を介して、総理大臣官邸と地方公共団体との間で緊急情報を双方向通信する仕組みである「緊急情報ネットワークシステム(Em-Net:エムネット)」の整備が内閣官房により進められています。

 しかしながら、市町村防災行政無線はあくまで市町村の職員が操作を行います。このため、国家機関が危機を察知してから市町村職員に伝達し、当該職員が市町村住民に情報を伝えるという2段階となります。この結果、時間もかかりますし、円滑に情報を伝達できないリスクもあります。一方、緊急情報ネットワークシステムも、あくまで地方自治体に情報を伝達する仕組みであり、住民への情報提供には別のメディアを利用する必要があります。

 全国瞬時警報システム(J-ALERT)は、危機発生時に国家機関から市町村および住民に迅速に警報情報を伝達する仕組みです。緊急情報ネットワークシステムと比較すると、大きな特徴は次の3点です。

(1)事前に市町村が整備しておけば同報無線やコミュニティーFMから自動的に情報を発信して、直接住民に警報情報を伝達できる
(2)情報の内容について、緊急情報ネットワークシステムは国-地方自治体間の情報共有の仕組みであるため詳細な情報が伝達されるのに対し、全国瞬時警報システムは国民への警報を目的としており簡潔な情報に絞って伝達される(図1
(3)人工衛星を経由して無線で情報を伝達する

図1●弾道ミサイル情報に関する音声放送の内容
図1●弾道ミサイル情報に関する音声放送の内容
出典:全国瞬時警報システム業務規程 (2010年12月15日制定)

 上の(2)に挙げた特徴もあり、全国瞬時警報システムと緊急情報ネットワークシステムとは今後も併存して運用されます。