文・濱田 大器(NTTデータ経営研究所 ソーシャルイノベーション・コンサルティング本部 マネージャー)

 災害発生時には、国民に向けて様々な情報を発信することが極めて重要な課題となります。地震の例で言えば、余震の情報、人的被害の情報、社会資本の被害と復旧の情報、避難所や支援体制など、多岐にわたる情報が必要とされます。これらの情報を迅速・的確に伝達することによって、被害規模を小さくすることも可能になります。

 これらの情報の発信元は、国の各機関、都道府県・市町村、ライフライン事業者など多岐にわたります。加えて、情報の内容が刻々と変化しながら最新情報が随時発信される、情報の受け手の中に被災者も含まれるといった特徴があります。このため、多様な主体から発信される最新の情報を分かりやすい形で迅速・的確に、さらには多様な端末を通じて伝えられることが極めて重要です。

 「安心・安全公共コモンズ」とは、このような課題に対応するために、総務省が中心となって検討を進めている情報提供の仕組みです。様々な情報発信者や情報伝達者(マスコミなど)から提供される情報を統合化された形式で一元的に蓄積し、国民に対してPC、デジタルテレビ、携帯電話などの多様な端末を通じて情報提供するためのシステム基盤の構築を目指しています。

 2008年度(平成20年度)には「地域の安心・安全情報基盤に関する研究会」が開催され、安心・安全公共コモンズの考え方やメリット、具体的な仕組みのイメージや関係者の参画方法などに関する検討が行われるとともに、東海地域で実証実験も行われました。

安心・安全公共コモンズが目指すもの

 「地域の安心・安全情報基盤に関する研究会報告書」では、災害情報の提供に関する現状の課題として、伝達手段の効率化や災害情報の更新の迅速化が挙げられました。またこのために、行政機関間の情報のやりとりの統合化、国への災害報告の様式の共通化など、提供情報の統合・共通化が課題として指摘されました。

 これを踏まえ同報告書では、安心・安全公共コモンズについて、(1)情報の収集・配信などの機能と、(2)データの入出力方式を共通化する機能とを実装する災害情報基盤システムを構築するとしています()。

図●安心・安全公共コモンズの機能イメージ
図●安心・安全公共コモンズの機能イメージ
出典:総務省の「地域の安心・安全情報基盤に関する研究会報告書」(2008年6月)を基に作成
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 また安心・安全公共コモンズの導入により、災害情報の受発信に関して地域住民、地方公共団体、放送事業者などのそれぞれにメリットがあるとしています()。

表●安心・安全公共コモンズのメリット
地域住民のメリット 高齢者をはじめ誰もが、いつでもどこでも、分かりやすい形式で地域の安心・安全に関する情報を迅速に入手できるようになる
地上デジタル放送などを通じて分かりやすい形で災害情報などを提供できる
移動中であっても災害情報などがリアルタイムで受信できる
地方公共団体のメリット 放送などの速報性や同報性を生かして情報を伝えられる
1回の入力で様々なメディアに効果的に伝えることができる
地方公共団体内部での情報共有ツールとして、災害状況を把握できる
他の地方公共団体の災害状況などを把握できる
広域・大規模な災害時に、他府県などの防災関係者とのコミュニケーションツールとして活用できる
情報伝達者(放送事業者など)のメリット スタッフの入力などの手間を省き、正確な情報をより迅速に伝達できる
大量の情報を時系列、地域別に管理できる
情報の訂正や削除が効率的に行える
出典:総務省の「地域の安心・安全情報基盤に関する研究会報告書」(2008年6月)を基に作成)