文・浅井 杏子(NTTデータ経営研究所 シニアコンサルタント)
コンビニ交付サービスとは、住民基本台帳カード(住基カード)を利用して、住民票の写しおよび印鑑登録証明書がコンビニエンスストア店舗で取得できるサービスです。コンビニ交付サービス実施団体の住民が対象で、全国のセブン-イレブンの店舗に設置されたキオスク端末(マルチコピー機)で証明書などを取得できます。
サービスは、2010年(平成22年)2月2日に千葉県市川市、東京都三鷹市および渋谷区の3団体でスタートしました。その後参加団体は順次拡大していき、2011年(平成23年)4月時点で全国41市区町村が参加しています。
コンビニ交付サービスは、これまでのような地方公共団体が単独かつ独自に開発したシステムではなく、全国標準のシステムを民間と連携して共同利用する新しい行政サービスの形態として注目を集めています。市区町村などはコンビニ交付サービスを導入することにより、住民サービスの向上と、窓口業務の効率アップ、コスト低減を見込めます。
住民と市区町村のメリットを整理すると、それぞれ以下のようにまとめられます。
住民のメリット
役所窓口の場所や受け付け時間の制約を受けずに、住民票などの証明書の交付を受けられるようになります。役所の開庁時間とは無関係に、休日や夜間でも最寄りのコンビニ店舗で証明書を取得できるほか、全国どこの店舗でも取得が可能なので、居住地から離れた勤務先や外出先での取得も可能となります。
市区町村のメリット
コンビニ店舗内のキオスク端末で申請から交付までの手続きすべてが完了するため、役所の窓口業務の負担軽減につながります。また、キオスク端末や回線はコンビニの既存設備を活用するため、市区町村が自ら新たに証明書自動交付機を設置するよりも低コストでの運用が可能です。
サービスの仕組みと処理の流れ
コンビニ交付は、地方公共団体が設置する証明書交付サービス協議会が運営しています。同協議会の事務局は、財団法人地方自治情報センター(LASDEC)内に設置されています。
住民が住基カードを利用してコンビニ店舗内のキオスク端末で証明書の交付を申請すると、LASDECが構築・運用する「証明書交付センター」を経由して、LGWAN(総合行政ネットワーク)を介して住基カード内の情報に基づき住所地の市区町村に指示が送られます(図)。
市区町村では、証明発行サーバーが庁内の住基システムと連携して証明書をPDF形式で作成し、証明書交付センターに送信します。証明書交付センターで改ざん防止情報を追加したうえで、コンビニ店舗のキオスク端末で普通紙に両面印刷されます。
市区町村がコンビニ交付を導入する際には、証明発行サーバーの構築のほか、証明書交付センターとの接続環境の整備(LGWANセルフASPセグメントの構築、SSL通信用のLGPKI証明書の取得など)、既存住基システムの改修、ICカード標準システムの導入などが必要です。ICカード標準システムは、住基カードの多目的利用を推進するツールとしてLASDECが開発し無償でソフトウエアを提供していますが、機器調達・保守の費用は別途発生します。
LASDECによれば、標準的な導入スケジュールは7カ月程度、導入にかかる概算費用は最小規模の機器構成で3300万円(機器等調達:480万円、導入SI作業:2820万円)です。このほかに、運営負担金(市区町村の人口規模に応じて年額100万~1000万円)や、機器・ソフトウエアの保守費用などが発生します。