文・寺島 智美(NTTデータ経営研究所 シニアコンサルタント)

 近年の経済・資本のグローバル化に伴い、民間企業会計の分野では日本の会計基準を「国際財務報告基準(IFRS)」に近づける作業が進んでいるほか、IFRSそのものを日本の企業会計基準として採用する検討が進んでいます。こうした動きの中で、公的部門についても、国際会計士連盟(IFAC)内の常設機関である国際公会計基準審議会(IPSASB)の下で、「国際公会計基準(IPSAS)」の策定が進められています。

 IPSASには、次のような基本的な特性があります。

●採用を強制されるものではない
 IPSASの位置づけは、「公的部門の主体のための一連の奨励すべき会計基準」であって、採用を強制されるものではありません。ただし、採用することによって、各国の公的部門によって報告される財務情報の質と、比較可能性の向上に役立つと考えられています。

●民間企業向けの会計基準をベースとして策定されている
 IPSASは、民間企業向けの会計基準であるIFRSに、公的部門特有の事情を加味することによって共通化(コンバージェンス:収れん)する方法が採られています。このプロセスでは、IFRSとの乖離(かいり)を正当化する特別な公的部門の問題がない限り、IFRSの会計処理を維持することが求められます。既存のIFRSがカバーしていない公的部門の財務報告上の問題については、IPSASBが新たな基準の設置、またはIFRSの修正について検討を行うことになっています。

 IPSASBは、IFAC(国際会計士連盟)内の常設機関であり、国際公会計基準IPSASの作成を担っています。IPSASBの委員はIFAC会員団体の推薦により決定します。2010年8月時点では、南アフリカ共和国・オーストラリア・米国・英国・フランス・イスラエル・中国・カナダ・ドイツ・ケニア・インド・ニュージーランド・日本・オランダ・ウルグアイから16人が選出されています。

 IPSASBでは、表1のようなプロジェクトを通じて基準の策定を進めてきているところで、現在も継続して策定を進めています。

表1●IPSASBの基準策定プロジェクトの経緯
活動時期 主な活動内容
第1期 1996年~2003年 ■公的部門の会計基準策定の前提となる研究報告の集大成
■1997年8月までの民間の国際財務報告基準をベースとした公会計基準の策定(IPSAS第1号~第20号)
■現金主義IPSASの策定
第2期 2003年~2007年 ■公的部門特有の問題に関わる取り組み開始
■IASB(国際会計基準審議会)および各国の基準設定主体との連携強化
第3期 2007年~ ■概念フレームワークプロジェクト開始
■IFRS(国際財務報告基準)に対応する会計基準作成(金融商品・無形資産ほか)
■その他

 特に近年は、2008年以降の金融危機を受けた民間セクターへの政府による財政投入などに伴い、公的部門における金融商品・企業結合などの会計基準策定の必要性が高まるとともに、ギリシャの財政危機に見られるように、IMF(国際通貨基金)としても公会計における世界基準の必要性が高まるなどの状況も相まって、IPSASの策定プロジェクトを加速させています。