文・河本 敏夫(NTTデータ経営研究所 マネージャー)

 国民ID制度は、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が2010年5月に公表した「新たな情報通信技術戦略」における重点施策の一つである。

表1●「国民ID」と「社会保障・税に関わる番号」との比較
表1●「国民ID」と「社会保障・税に関わる番号」との比較
出典:国家戦略室、IT戦略本部の公開資料を基に作成
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 行政機関における情報共有の推進と、国民が自己の情報を確認できる仕組みの整備を目的とした“電子行政の共通基盤”として掲げられている。今後、政府内で検討を進め、2013年度までに制度として導入し、IDを配布する方針だ。

 類似する制度として、国家戦略室が検討中の「社会保障・税に関わる番号制度」がある。国民一人ひとりを識別する機能を持つ点では国民IDと共通しているが、位置づけや適用範囲が異なる(表1)。政府は両者の整合性を意識して検討を進めている(図1)。

図1●国民ID制度の導入スケジュール
図1●国民ID制度の導入スケジュール
出典:IT戦略本部「新たな情報通信技術戦略 工程表」を基に作成
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何ができるのか

1.各種行政手続きのオンライン化/ワンストップ化
 国民ID制度の第一の目的は、「府省・地方自治体間のデータ連携を可能とする」こと。国民IDによって、行政手続きの申請者がどこの誰かを確認できれば、行政機関同士で情報を共有し、同じような書類の提出を何度も求める必要がなくなる。

 国民の視点から見れば、手続きのために訪問する行政機関が少なくなり、手続きにかかる負担が軽くなるメリットがある。

 引っ越しを例にとると、現在は転出地の市町村と転入地の市町村を訪問して別々に届出を行い、同じような添付書類を提出する必要がある。国民IDの導入により、オンラインかつワンストップで手続きを済ませられるようになるといった変化が考えられる。

2.行政機関が管理している自己情報の確認
 第二の目的は、「行政が保有する自己に関する情報について、国民が内容を確認できる仕組みを整備する」ことだ。

 “消えた年金”問題など、行政当局における不適切な情報管理が露呈し、行政に対する不信感が増大する中、行政が管理している自己に関する情報について、適切に管理されているか確認したいというニーズが高まっている。国民IDは、行政機関のデータベースへのログインIDの役割を果たし、本人自らデータベースにアクセスし、自己に関する情報を確認し、問題があれば告発できるようになる。

3.民間利用などへの拡大
 メリットがあるのは、行政手続きだけではない。国民IDと民間分野で利用されているID(個人識別情報)との連携可能性についても検討される予定である。

 前述の引っ越しの例で言えば、民間IDと連携させることで、電気やガスの住所変更手続きも含めてワンストップで完了できることになる。民間分野でのワンストップサービスについては、既に経済産業省が実証実験を行っている。

 また、法人を識別する企業コードとの連携が実現すれば、雇用関係の手続きをワンストップ化することも可能になる。