人の眼球の動きを記録して分析する調査手法。印刷物やウェブサイト画面などを見るときの眼の動きを調べることで、人の判断に与える影響について探る。

 顧客は商品を購入する前に、パンフレットやウェブサイト、売り場のPOP(店頭販促)広告など様々な媒体を見て判断します。商品自体の価格・品質以外にも、視覚で得たイメージが判断に与える影響は大きいものです。

 一見、優れたデザインに見えても、写真が小さ過ぎたり、色使いが地味過ぎたり、逆に派手過ぎて顧客に不信感を与えてしまったりする可能性があります。

 しかし、パンフレットやウェブサイトのデザインの良しあしを、デザイナーや責任者など限られた関係者だけで判断してしまうケースが多いのが実情でしょう。そこで科学的に分析する手法が生まれました。特殊な装置で人の眼球の動きを追跡・記録することで心理面への影響を探るアイトラッキングという手法です。この装置はアイトラッカーと呼ばれます。

効果◆視線から注目度を把握

 アイトラッカーには、眼の動きを追跡し、紙やウェブサイト画面の中の、どの部分からどの部分へと視線が移ったか、その部分を何秒間見たか(滞留時間)といったデータを記録します。これを分析すれば「重要な写真があまり見られていない」「見られていても滞留時間が短く関心を引くことができていない」といった事実が分かります。

 ただし滞留時間が長い理由は、アイトラッキングだけでは判断できません。魅了されたのかもしれないし、内容を理解しづらかったのかもしれません。「商品のコンセプトを理解できたか」をアンケートで聞くなど、多角的に調査したうえで判断します。

 視線の動きに加えて、瞳孔の動きを分析対象に含める研究も進んでいます。VIS総研(東京・千代田)は視線と瞳孔の直径を同時に測定・分析する仕組みを開発。画面内で「グラビア写真」を見る人の滞留時間が短くても、瞳孔が開いていれば、顕在意識では無関心なようでいて潜在意識では高い関心を持っている可能性があります。

事例◆宿泊予約が1.8倍に

 アイトラッキングは動画、印刷物、陳列棚など視覚に関係するあらゆる媒体に適用できます。特に、ウェブサイトのデザイン分野で活用が進んでいます。リゾート施設などを運営する星野リゾート(長野県軽井沢町)はアイトラッキングを活用し、自社サイトの内容を見直しました。被験者は写真から写真へと目を移しており、しかも、抽象的なイメージ写真にはあまり注目しないことを突き止めました。そこで文字を減らして具体的な料理の写真などを増やしたところ、宿泊予約数が従来の1.8倍になる効果があったとしています。