商品・サービスの価値の中で、品質や機能といった直接的なものでなく、購入前や使用時に顧客が経験する気分や雰囲気、香りといった感覚的で付加的な価値のこと。

 性能や機能、価格などは商品の重要な差異化要因です。しかし、その商品の購入にかかわる体験すべての中に心地よさや感動などを得てもらう機会があり、それが顧客から見たトータルな価値だという考え方があります。

 このように、商品・サービスそのものが持つ表面的あるいは物理的な価値とは別に、その商品にかかわる体験全般を通じて提供可能な、ロイヤルティーを高める価値のことを「顧客経験価値」といいます。例えば購入前から心地よさを感じてもらうといったものです。米国の経営学者であるバーンド・H・シュミット氏の『経験価値マーケティング ──消費者が「何か」を感じるプラスαの魅力』(ダイヤモンド社)が2000年に国内で発刊されたのをきっかけに注目され始めました。

効果◆感情的な支持を得る

 顧客経験価値を高めると、顧客の内面により深く働きかけ、感情的な支持を得ることが出来ます。分かりやすい例は、各種サービス施設の在り方です。喫茶店であれば、飲み物を味わってもらうだけではなく、インテリアや音楽、店内の香り、笑顔の接客などを通じて心地よさや感動を提供することで顧客から高い支持を得られます。プロスポーツ観戦であれば、単に選手のプレーを見せるだけではなく、ファン同士で楽しさ、心地よさ、悔しさを共有する機会を提供することで、また競技場に足を運びたくなる感情的な支持を顧客から得ているのです。

 前述のシュミット氏は日本企業が製品に顧客経験価値を加えた例として「便器」を挙げています。トイレに入ると自動的に温度調節を行ったり、風鈴や虫の鳴き声など心が安らぐ音を再生できるようにしたり、手軽に糖尿検査ができるようにしたりして、使用者に快適さや安心さを提供するようになったからです。

 顧客経験価値を実現するマネジメントとして「CEM(経験価値マネジメント)フレームワーク」をシュミット氏は提案しています。同氏の著書『経験価値マネジメント──マーケティングは、製品からエクスペリエンスへ』(同)によればCEMフレームワークは「顧客の経験価値世界を分析する」など5つの段階から成り立っています。

事例◆動物園の経験価値を再考

 従来の事業に新たな顧客経験価値を加えた好例が旭川市旭山動物園です。「動物が生み出すドラマの中に入り込んでもらうことで地球環境や生きる意味を考えてもらおう」と来園者に提供する価値をとらえ直しました。動物を間近に見たり、逆に動物から見られたり驚かされたりするような「行動展示」へと施設をリニューアルして、高い人気を獲得しています。