職場やプロジェクトのメンバーを支援して、目標達成に導く、奉仕型のリーダーシップ。ビジョンを提示したうえで、コミュニケーションや信頼関係の構築を重視する。

 経済環境が悪化するなか、政治にも経営にも「強いリーダーシップが必要」という論調が高まっています。強いリーダーシップというと、自ら先頭に立って事業をけん引したり、部下への指示命令を徹底させたりするリーダー像が思い浮かびますが、部下の自主性を阻害して、継続的に成長させられない弊害を生むこともあります。

 これとは逆に、リーダーが組織のメンバーを支援することによって、組織の潜在的な力を発揮させるのが「サーバント(奉仕する)リーダーシップ」です。米AT&Tでマネジメント研究センター所長を務めたロバート・グリーンリーフ氏が定義し、1977年に同名の著書を出版しました。2008年末に出版された邦訳*は、リーダーシップ関連の書籍のべストセラーになっています。

効果◆組織の力を引き出す

 サーバントリーダーには、「傾聴」「共感」「概念化」「気づき」「成長へのコミット」「コミュニティーづくり」など10の属性が必要とされています。組織のメンバー一人ひとりが優れた知見や経験を持っていても、リーダーが引き出す努力をせず、自分のやり方や成功体験を押し付けていては組織としての成果は最大化できません。メンバーの話をよく聞き、視点を変えて新しい気づきを促して成長を支援するわけです。コーチングやファシリテーションを活用して、上司が部下の力を引き出す取り組みもサーバントリーダーシップに包含されるでしょう。

 経営トップや本社が、生産や営業の現場に対して一方的に指示や方針を打ち出すのではなく、現場が主体的に業務改革に取り組めるよう促すのも、サーバントリーダーシップと考えられます。リーダーはビジョン、すなわち進むべき方向を提示しながら、現場が主体的に歩み出せるよう、コミュニケーションやマネジメントの仕組みを整えていくことが必要です。

事例◆現場を支えるトップ

 日本においてサーバントリーダーシップの重要性に早くから注目していたのが資生堂で社長を務めた池田守男氏(現・相談役)です。「お客様が一番上にいて、それを営業担当者が支え、それを本社がサポートし、最後に会社全体を社長が支える」というビジョンに基づき、店頭起点の経営改革を進めました。

 2006年には現社長の前田新造氏が、販売の第一線を担う美容部員の営業ノルマを撤廃し、顧客満足度に基づく人事評価を導入しました。「100%お客様志向」という企業ビジョンを、現場の社員が実現できるようマネジメントの仕組みを変えて支援したという点で、サーバントリーダーシップを経営トップが発揮した例といえるでしょう。

■参照
*『サーバントリーダーシップ』(英治出版)