商品開発や販促に脳科学を応用する考え方。脳の働きから人の深い「気持ち」の部分を把握することで、より消費心理に適合した商品を作れる可能性がある。

 ニューロマーケティングは、脳科学の知見を人の消費行動や心理の解明に応用し、「脳にとって心地良い商品を出す」といった形でマーケティングに活用する取り組みです。まだ基礎研究の域を出ませんが、徐々に注目を集めつつあります。「右脳人間」「左脳人間」といった言葉が使われるように、脳の働きが人間の判断や行動に影響を与えることはよく知られています。これを応用すれば消費行動を喚起できそうですが、現実には困難でした。

効果◆消費の心理を知る

 この10年ぐらいで、マーケティングに応用するための研究課題の一部が解決に向かいつつあります。1つは、脳科学の発展です。脳の各部位がどんな働きをするかということはまだまだ謎が多い領域ですが、「右脳の側頭葉は顔の視覚認知と関係が深い」ことなどが部分的に解明されつつあります。

 もう1つは、「fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)」の開発です。従来は被験者に聞いたり、脳波を測定したりといった手法で間接的に脳の活動を把握するしかありませんでした。現在では、医療検査用のMRI(磁気共鳴画像装置)を応用したfMRIで、脳の活動の画像を直接撮影できます。fMRI機器は高価で、まだ日本に限られた数しか存在しませんが、研究者が共同で使える環境が整いつつあります。

 これまでも、POS(販売時点情報管理)データやアンケートなどで消費行動を推測する試みは行われてきました。これらは表層的な行動を表していますが、「気持ち」のレベルまでは分かりません。ニューロマーケティングを活用すれば、人の深層心理に響く商品を作り出せる可能性があります。

事例◆化粧の意味を解明

 花王グループの化粧品大手、カネボウ化粧品(東京・港)は、脳科学者の茂木健一郎氏と共同で「化粧・美×脳科学」プロジェクトを運営しています。2008年11月に、女性が化粧をする行為が脳に与える影響についての研究成果を学会発表しました。

 被験者の女性に自分の素顔・化粧顔、他人の素顔・化粧顔の4種類の画像を見せて、その瞬間の脳活動をfMRIで測定。すると、化粧をする時に、意欲や喜びの感情がわく脳活動が観測されました。自分の化粧顔を見た時に、他人の顔を見た時と似た脳活動が起きていることも分かりました。

 化粧をするという行為は、女性の心理にとって単に外見的美しさを引き出す以上の意味があることを示唆しています。「まだ具体的な商品化につながる段階ではないが、顧客が求める真の価値を深く知ることで、より適合した商品を出せる」と同社の基盤技術研究所は見ています。