図1 ブロードバンドの利用率100%を目指す「光の道」構想
図1 ブロードバンドの利用率100%を目指す「光の道」構想
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図2 ブロードバンド利用率を30%から100%にするためのNTTと他事業者との競争上の問題点
図2 ブロードバンド利用率を30%から100%にするためのNTTと他事業者との競争上の問題点
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 「光の道」とは、原口 一博総務大臣が提唱する「2015年までにすべての世帯でブロードバンドサービスの利用を実現する」構想のこと。その発端は、2009年末に原口大臣が発表したICTと地域分野の成長戦略「原口ビジョン」にある。このときの目標は「2020年までにすべての世帯(4900万世帯)でブロードバンドサービスの利用を実現」というものだった。ところが2010年3月に開催された総務省政務三役会議で原口大臣は「2020年では遅すぎる」として、利用率100%達成の時期を2015年に前倒しした。加えてNTTの経営形態を含む「光の道」の整備方法について、総務省で開催しているICT政策に関する作業部会で早急に検討するよう指示を出した。

 急ピッチで議論が進むなか、まず部会がアクセス網の整備方法として示したのは、(1)インフラの整備率の向上、(2)利用率の向上──の二つである(図1)。

 現在日本のブロードバンドの主力は、FTTHやケーブルインターネットなど下り数十Mビット/秒以上の超高速ブロードバンドへと移行している。既に国内90%以上の世帯でFTTHをはじめとする超高速ブロードバンドが利用できる環境にある。しかし離島や過疎地など、残り10%の世帯は超高速ブロードバンドのインフラが未整備のまま。そのため、(1)のインフラ整備率を90%から100%に上げるための方策が必要となる。

 もう一つは、90%の世帯が超高速ブロードバンドを利用可能な状態にあるにもかかわらず30%程度の加入にとどまる状況の改善策だ。つまり(2)の利用率を30%から100%にするための方策である。

 (1)の「90%→100%」は、コストをかけさえすれば達成可能だ。NTTグループは「離島や山間部も含めて1.5兆円で整備率を100%にできる」という。ただしこのような地域はビジネスとして成り立たない地域がほとんであるため、作業部会では公的支援の必要性を指摘する声も上がっている。現在も国の支援を受けた地方公共団体がインフラを設営し、民間事業者がサービスを運営する「公設民営方式」によるインフラ整備が進んでいる。この枠組みをさらに活用する考えだ。

 最大のネックになりそうなのが(2)の「30%→100%」の利用率向上である。

 作業部会内で光の道検討チームの主査を務める東京大学大学院工学系研究科の相田 仁教授は、利用が伸び悩んでいる理由を、「キラーアプリケーションがないこと、料金が高止まりしていること」と説明する。利用を促すような規制の見直しや事業者間の競争環境の再整備による料金低下によって、利用率向上を促す考えを見せている。

 4月20日に開催された光の道構想実現に向けたNTTやKDDI、ソフトバンクなど通信事業者に対する総務省のヒアリングでは、NTTグループに対する競争上の問題点の指摘が相次いだ。KDDIの小野寺 正社長兼会長は、「NTTはメタル時代からの顧客基盤を引き継いでいるほか、管路やとう道、電柱の利用で競争上有利な立場のままであり、見直しが必要」と指摘。総務省の作業部会も、競争上の問題点を認識し、競争力の源泉であるNTT 東西のアクセス部門に対する規制の見直しなどの検討を始めている(図2)。

 このなかで競合事業者は、かねてから繰り返しているNTT東西のアクセス部門の分離を求める声を再び強めている。アクセス分離によって「中立的な立場で各事業者へアクセス網を貸し出すことにより公正競争を担保できる」(ソフトバンクやイー・アクセスなど)という理由からだ。

 その一方で、自らインフラを敷設して設備ベースの競争をしているNTT やケイ・オプティコム、ジュピターテレコムは、「時間とコストがかかる」「イノベーションを阻害する」と、アクセス分離に真っ向から反対する。NTT東西のアクセス分離にはメリットとデメリットがあり、トレードオフの関係にあることを考慮する必要がある。