裁判ではなく、第三者を介した調停や仲裁などを通じてトラブルを解決することを促進する法律。ADRは「裁判外紛争解決手続き」を意味する。

 購入した商品で事故に見舞われたが、メーカーが誠実な対応をしてくれない──。私たちの身の回りで起こり得る様々なトラブルの中には、裁判を起こすほどではないにしても何らかの解決を望む問題や、中立的な立場にある第三者の専門家から話を聞いたうえで解決したい問題などが数多く存在します。そうした問題を裁判以外の方法で解決することを総称して「裁判外紛争解決手続き」と呼び、英語ではADRと表現します。

 2007年4月、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」が施行されました。それがADR法と呼ばれるもので、ADRの活用を促進するためのものです。一般に、裁判は問題が解決するまでに時間がかかるうえ、費用が高く、手続きも複雑です。しかも裁判の経過や判決は公開されます。そこで問題によってはADRによる仲裁や調停、あっせんを検討してみるのも一案でしょう。ADR法は問題の解決手段を充実させ、最もふさわしい方法を容易に選択できるようにする目的があるのです。

効果◆裁判よりも早くて安い

 ADRには裁判の欠点を補う特徴があります。それは「柔軟性」「迅速性」「専門性」「機密性」です。ADRは当事者が合意すれば、スケジュールを自由に決められますし、解決までにかかる時間が裁判よりも短くて済むことが多いのです。費用を安く抑えることも可能です。専門知識を持つ第三者にかかわってもらうこともできますし、解決までのプロセスや結論は原則的に関係者以外には公開されません。

 裁判とADRはそれぞれの違いを理解し、解決したい問題ごとに使い分ける必要があります。ADRも万能ではないからです。例えば、裁判を起こすのに相手の同意はいりませんが、ADRは当事者の同意の下で手続きが進められます。しかも裁判は裁判官が下す判決に強制力がありますが、ADRの中でも第三者によるあっせんや調停には解決策に強制力がなく、当事者の同意が必要になります。

 逆に第三者が判断を下し、強制力が認められている仲裁には裁判の上訴に相当する制度がなく、不服を申し立てることができません。

動向◆システム開発の紛争を解決

 ADRは今後、情報システムの開発や運用にかかわる当事者の紛争解決にも利用されていくでしょう。2008年7月には、ソフトウェア情報センター(SOFTIC)の「ソフトウェア紛争解決センター」がADR法に基づく「紛争解決事業者」として法務大臣から認証を受けました。システムトラブルがADRで機密性を保ちながら早期に解決へと向かうことが期待されます。