企業などがインターネットを通じて不特定多数の群衆(クラウド)に業務を委託すること。多数の知的労働力を安価に調達できる可能性に注目が集まっている。

 インターネットの普及により、従来は企業でなければ作れなかった高度なソフトウエアやコンテンツ(情報の内容)などを、ネットに参加する個人が協力し合って開発できるようになりました。オープンソースの基本ソフト「リナックス」や百科事典サイト「ウィキペディア」が典型例です。現在のインターネットは、人々の知識の集積場といえます。

 この知識の集積場を、自社の業務に活用できないかと考える企業が増えてきました。取引先に業務をアウトソーシングするように、インターネット上に集まる群衆(クラウド)に知的労働力を委託するわけです。このような取り組みを、クラウドソーシングと呼びます。米国の編集者であるジェフ・ハウ氏が2006年に米ワイアード誌への寄稿でこの言葉を用いて以来、広く知られるようになりました。国内でも、新商品の企画案をクラウドから募集するなどの試みが登場しています。

効果◆多数の知恵を安価に利用

 クラウドソーシングの第1の利点は、多人数の知的労働力を相対的に低コストで利用できることです。クラウド内の一人ひとりの知力は玉石混交かもしれません。しかし「三人寄れば文殊の知恵」ということわざのとおり、1人が出したアイデアがほかの人のアイデアを引き出し、クラウド全体で見ると質の高いものが出来上がりやすくなります。

 また、商品開発のようなケースであればクラウドの知恵を借りる過程で、商品のファン育成にも役立ちます。クラウド内の個人が開発にかかわった商品に愛着を抱き、口コミなどによる宣伝役を自発的に務めてくれる可能性もあります。

 ただし、「船頭多くして船山を上る」に陥る恐れをはらんでいる点には注意が必要です。依頼主の企業があいまいな方針で臨むと、クラウドからの意見が発散して質の高い知恵が得られにくくなります。通常のアウトソーシング契約と違い、企業が望む品質水準を強制的に求めることも困難です。

事例◆バナー広告を委託

 リクルートは2008年8月、ウェブサイトに掲載するバナー広告のデザインをクラウドソーシングする「みんなのクリエイティブエージェンシーC-TEAM(シーチーム)」というサービスを開始しました。

 クリエーターたちの作品のバナーをNTTレゾナント(東京・千代田)のポータル(玄関)サイト「goo」などに無作為に次々と表示させ、クリック率が高い作品を採用。広告効果を高める狙いです。シーチームには同年9月末時点で約1200人のクリエーターが参加しています。現状ではグループ会社の広告に限定していますが、2008年中にも一般の広告主のデザインに広げます。