プライベート・クラウドとは,企業内に構築したクラウド・コンピューティングのしくみのことである。クラウド・コンピューティングとは,「インターネットの先にあるシステムに処理を任せる」という,コンピュータの利用スタイルを指す。米アマゾン・ドット・コム,米グーグルなどが提供するサービスが代表的だ。ユーザーはサーバーやストレージ,アプリケーションなどのリソースを,物理的な所在を意識せずにサービスとして利用できる。アクセスには主にインターネットを使う。企業,個人を問わず利用できるサービスが多いことも特徴だ。

 本来のクラウド・コンピューティングには,「サーバー構築の手間をかけず,使いたい時にすぐ使える」,「コストが安い」といったメリットがある。しかし,「提供者側で用意したサービスしか使えない」,「セキュリティが心配」などの理由から,採用に二の足を踏む企業も多い。そんな企業向けに,2008年ころからプライベート・クラウドという概念が提唱され始めた。特徴は,企業ごとに独自の作り込みをしたクローズドなシステムであることだ。

 例えば,ある企業が自らデータ・センターにサーバーやストレージを集約し,その上に独自の業務システムを構築したとする。これを,自社の拠点や関連会社などに対して,イントラネット経由でクローズドなサービスとして提供するのだ。従来の大規模企業システムとの違いは,業務システムを企業ごとに標準化し,Webブラウザなどから簡単に利用できる点である。このとき,本社の情報システム部門は関連会社などにとって,まるでサービス・プロバイダのように見える。

 一般に,大規模なデータ・センターには複数の企業のシステムが預けられている。プライベート・クラウドはデータ・センター内に各企業独自の小さいクラウド(雲)が浮かび,限られたユーザーからのアクセスを受け付けるイメージだ。最近ではプライベート・クラウドに対し,従来のクラウド・コンピューティングを「パブリック・クラウド」と呼ぶことがある。

 将来的には,プライベート・クラウドとパブリック・クラウドを併用したり,連携させたりできる可能性がある。例えば,基幹系システムはプライベート・クラウドで動かし,情報系システムはパブリック・クラウドを利用するといった具合だ。こうしたパブリック・クラウドとの連携部分もまとめて,プライベート・クラウドの範囲に含める場合もある。