コミュニケーションデザインとは、企業が消費者に向けてメッセージを発信する際に、それが最大効果を得られるように、顧客との接点となる媒体や情報の中身、タイミングなど全体の構成を考えて設計すること。

 コミュニケーションデザインという言葉自体は新語ではないが、近年、広告・宣伝分野で頻繁に使われるようになった。例えば電通には、クリエーティブ関連部門が集うソリューション・セクターに「コミュニケーション・デザイン・センター」という部署が設置されている。

 こうした背景にはインターネットの進展と利用者の増加で消費者が接する情報量が飛躍的に増大していることが挙げられる。従来、企業から消費者へのメッセージは、テレビ、新聞、雑誌、ラジオの既存メディアと、屋外広告やチラシなどが主要媒体で、その広告枠を抑えるという発想だった。それがインターネット広告の登場によって枠は無限に広がり、自社Webサイトをメディア化して消費者を誘導することで低コストでアピールすることも可能になった。

 また、手法についてもWeb閲覧履歴を基にした行動ターゲティング広告が注目を集めるなど多様化、複雑化している。さらに、これまで情報の受け手だった消費者がブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、価格比較サイトのクチコミ機能などを通じて商品の良しあしを批評する発信者となり、そのクチコミがほかの消費者の購買行動に大きな影響力を持つようになった。クチコミの内容は企業側でコントロールはできないものの、誰かに伝えたくなるような“よいクチコミ”を波及させる仕組みを全体のデザインの中に組み込むことが、一段と重要性を増している。

 そんな新時代のコミュニケーションをデザインしていく上で障壁となりやすいのが、これまでの発想の縛りや縦割りの組織体制だ。今までのメディアプランニングは、「広告予算を新聞広告+テレビCM+Webサイト制作に割り振る」という広告ベースの足し算型の発想だった。そしてクリエーティブ側もCMが得意な人と紙媒体が得意な人、Web制作ができる人にそれぞれ仕事を割り振った結果、単体のクリエーティブは優れていても、全体としてのバランスが悪いケースが多々あった。

 この壁を打ち破るには、媒体選定からクリエーティブの内容まで全体を統括する「コミュニケーションザイナー」が必要だ。コミュニケーションザイナーには、メディアの足し算ではなく、例えば紙媒体からQRコードでケータイサイトに誘導して相乗効果をもたらすようなクロスメディア型の掛け算発想ができること。そして職人気質のクリエイターたちにキャンペーンの全体像を説明し、整合性の取れたクリエーティブを作ってもらう強力なリーダーシップが求められる。企業の広告・宣伝部門や広告代理店の社員にとって今最も求められる、時代が要請するスキルと言えるだろう。