大事故や災害の医療現場で、「トリアージ」という言葉を耳にすることがあります。多数の傷病者が出ているなかで、容態や緊急度に応じて優先順位を判断し、治療に当たることを指します。1人でも多くの人命を救うため、処置を施しても救命の可能性がない傷病者の治療をあきらめるといった重い決断も迫られます。

 IT(情報技術)業界でも最近、この言葉を使う動きがあります。ウイルスの侵入やシステム障害の発生時に、どういう手順で復旧するかという、作業の優先順位を判断することを表します。この手順を誤ると、復旧への時間やコストが膨大になるからです。

 2008年5月、三菱東京UFJ銀行の新システム移行作業中のトラブルで、セブン銀行のATM(現金自動預け払い機)が一時停止しました。取引先や提携先とのシステム連携が拡大するにつれて、1社のシステム障害が他社に波及する危険性も高まっています。外部への影響度も優先順位を決めるうえで重要です。

 とはいえ言葉の使い方として「救命にかかわる重い判断を本来指しているのに、システム復旧の場面で例えるのは不謹慎」という指摘も出ています。全体最適の視点で優先順位を決めるべきだと認識する意義はありますが、むやみに乱用すれば反感を買う可能性もあることに留意すべきでしょう。