文・有井 結子(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 コンサルタント)

 電子私書箱とは、医療機関や保険者などが個別に管理しているカルテや社会保険などの社会保障情報を、希望する国民がパソコンからインターネットを介して自らの情報を入手や閲覧、活用できる仕組みのことです。

 「健康で豊かな国民生活を実現するためには、個人が自己の社会保障情報や健康情報を簡単に入手、管理することができる仕組みを確立することが重要である」(「電子私書箱(仮称)による社会保障サービス等のIT化に関する検討会 報告書」より)という考えに基づいています。現状では、社会保障に関するサービス手続きや情報入手先が複数存在しており、国民にとって複雑で使い勝手が悪くなってしまっていることに対する問題意識が、電子私書箱構想の背景となっています。

 電子私書箱の構想は、2007年7月26日に内閣総理大臣を本部長とするIT戦略本部が策定した「重点計画-2007」で発案され、2007年10月に発足した「電子私書箱(仮称)による社会保障サービスなどのIT化に関する検討会」において電子私書箱のあり方や課題が検討されています。

電子私書箱の利用イメージ

 電子私書箱の実現に向けた道筋としては、まず、医療機関や保険者などの各機関によってバラバラに保有されている情報をとりまとめる、「電子私書箱」を運営する事業者を設置することが想定されています。そこに個人がアクセスすることで、利用者が、あたかも「私書箱」を利用する時のように、従来はバラバラであった自身の情報を一括して入手・閲覧できる仕組みにすることが想定されています。

図1●電子私書箱の利用イメージ
出所:電子私書箱(仮称)による社会保障サービス等のIT化に関する検討会 報告書

 「電子私書箱(仮称)による社会保障サービスなどのIT化に関する検討会」では、主に、以下の社会保障に関するサービスにおいて、情報の入手・閲覧ができるようにすることが検討されました。

表1●電子私書箱で利用が想定されている主なサービス
情報提供機関入手可能な情報の種類
保険医療機関などの健診実施機関診療費支払いの領収書など
社会保険庁年金加入履歴、保険料納付歴、受給予測額、受給額など
厚生労働省雇用保険や労働保険に関する保険料納付、受給の情報など
自治体【福祉】生活保護、児童手当、子育て支援の情報
【国保】保険料納付記録
【介護】保険料納付、受給の情報など
出所:電子私書箱(仮称)による社会保障サービス等のIT化に関する検討会 報告書

 また、「年金手帳」「健康保険証」「介護保険証」の役割を1枚で果たす「社会保障カード(仮称)」との連携も期待されており、特に、電子私書箱の健診情報等の健康情報の閲覧・管理に資する機能を果たすことが期待されています。

電子私書箱の利用におけるメリット

 電子私書箱の利用が進むと、利便性の向上、付加価値の享受、運用コスト削減など利用者と各サービス提供者の双方にとってのメリットがあると期待されています。

 利用者のメリットとしては、個別のサービス機関(国、自治体、保険者、医療機関、その他)が持つ情報を容易に入手・閲覧できることや、利用者側で自己の情報を一元的に管理できること、そして、情報を適切に活用し、第三者からのアドバイスなど各種サービスを受けられることがメリットとして期待されています。

 医療機関のメリットとしては、情報の共通化による患者中心の医療が実現されることや、個人への情報開示の簡便化・コストの削減につながることが期待されています。

 保険者のメリットとしては、医療費の通知手段として活用できることや、個人への情報開示の簡便化・コストの削減(例えば、ねんきん定期便などとの連携)につながることが期待されています。

 民間企業のメリットとしては、電子私書箱で扱う情報を活用する新たなサービスが創出できることや、各種明細表の通知コストの削減につながることが期待されています。

 国・自治体のメリットとしては、個人への通知コスト削減につながることや、事務手続きの簡素化につながることが期待されています。