建設工事や情報システムなど長期請負工事契約に関する売り上げの計上基準の1つ。進ちょく状況に応じて四半期といった期間ごとに計上する。

 「売り上げ」という言葉の定義は案外複雑です。特に数年がかりで請け負うような長期プロジェクトから得られる売り上げの計上方法は、複数あります。従来のIT(情報技術)業界で代表的な考え方は、すべてのシステム開発が終わって検収が済んでから売り上げを計上する(完成基準)というものでした。ただしこれでは、完成するまでの期間は、そのプロジェクトに関して売り上げが立たないことになり、経営状態が悪く見える可能性もあります。これは株主など外部の関係者を惑わす原因になります。

 そこでIT業界にも「工事進行基準」という売上計上基準が適用される見通しです。工期がごく短いものを除くプロジェクトについて、進ちょく状況を把握してその分だけを当該決算期(四半期など)の売り上げとして計上する基準です。

 企業の会計基準を実質的に定めている企業会計基準委員会が、2007年12月に国際会計基準に合わせた内容の「工事契約に関する会計基準」を公表しました。2009年4月以降に始まる事業年度から、IT業界でも進行基準が原則として義務化されます。

効果◆期間別の損益を明確にする

 進行基準を導入することで、大型プロジェクトを抱えるITベンダーなどの期間損益が分かりやすくなります。社内での意思決定や、株主などへの経営状態の説明も明確になります。

 ただし、期間損益を正しく計上するのにはいくつかの前提条件があります。(1)プロジェクト全体の売り上げ総額が事前に予測できること、(2)原価の総額も事前に予測できること、(3)進ちょく度が正確に把握できること──です。

 従って、ITベンダーに発注するユーザー企業にも今回の会計制度見直しの影響が及びそうです。システムの全体像をあいまいにしたままプロジェクトを開始し、途中で五月雨式に新しい要件を追加していくような発注の仕方では、ITベンダーから敬遠される恐れが高まっています。

事例◆野村総研が先行

 日本でも、建設やプラント業界などの企業では既に進行基準の導入が進んでいました。IT企業では、野村総合研究所が1995年からいち早く、情報システム開発プロジェクトなどについて進行基準の本格適用を始めました。富士通なども適用していますが、まだ少数派です。

 ITベンダーの業界団体である情報サービス産業協会(JISA)は2008年夏にも進行基準への具体的な対応策をまとめたマニュアルを発行する予定で、業界内での啓もうを進めています。