図1 イーサネットで大電力を提供するIEEE802.3at ドラフト3.3の仕様に基づいたもの。
図1 イーサネットで大電力を提供するIEEE802.3at ドラフト3.3の仕様に基づいたもの。
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 IEEE802.3atは,ネットワークに接続されている機器を動かすための電力をイーサネットで供給する標準規格である。PoE(power over Ethernet) plusと呼ばれることもある。2009年9月に標準化作業が終わる予定だ。

 IP電話機や無線LANアクセス・ポイント(AP),ネットワーク対応の監視カメラなどでは,電源ケーブルがなくても使えるものがある。これはLANケーブルを使って電力を供給するPoEという技術を使っているため。PoEはIEEE802.3afとしてすでに規格化されている。

 このIEEE802.3afを拡張して大電力を供給できるようにする新しい標準規格がIEEE802.3atである。IEEE802.3atは,1ポート当たり30W(ワット)の電力をLANケーブル経由で給電側機器に供給できる(図1)。従来のIEEE802.3afの上限が15.4Wなので,2倍近くの電力を供給できるようになる。

 この供給能力の差は,利用するLANケーブルの違いにある。IEEE802.3afではカテゴリ3以上のLANケーブルなら使えたが,IEEE802.3atではカテゴリ5e以上のLANケーブルが前提となる。カテゴリ3では20Ω(オーム)だった抵抗値は,カテゴリ5eでは12.5Ωになる(抵抗値はいずれも100メートルのLANケーブルの場合)。抵抗値を低くすることで,給電する電力量も大きくしやすくなる。

 また,IEEE802.3atは従来のIEE802.3afと下位互換性がある。給電側機器がIEEE802.3atに対応していれば,IEEE802.3atの受電機器をつなげば大電力を,IEEE802.3afの受電機器をつなげば従来の電力を供給する。なお,IEEE802.3atの標準規格が完成すると,IEEE802.3afはそこに集約され,IEEE802.3atのType1という仕様になる。新たに拡張された部分はType2という仕様になる。

 IEEE802.3afでは,IEEE802.11nの無線LAN APやIP電話機,監視用ネットワーク対応カメラなどに利用することを想定して仕様を決めた。IEEE802.11nの無線LAN APは,IEEE802.11a/b/gの無線LAN APよりも消費電力が高いので,IEEE802.3afでは動作できない。また,無線LAN APは屋内だけでなく,屋外に設置されることもある。こうしたケースでもIEEE802.3atに対応していれば,LANケーブルだけで動作する。