戦略的な意味合いを持った価格政策。単にコスト増を転嫁して値上げするという発想ではなく、顧客に提供する価値に見合う適正な価格を設定して長期に利益を得る。

 原油や穀物をはじめとする原材料価格の高騰を背景に、食料品や衣料、日用品などの値上げが相次いでいます。1~2年前までは中間業者への価格転嫁にとどまっていましたが、最近では末端価格に波及してきました。デフレが進行した2000年以降、企業はコスト削減を最優先してぎりぎりの利益を確保してきましたが、それも限界となり、価格引き上げへと軸足を移しています。

 しかし、コスト増加分をそのまま上乗せするという場当たり的な値上げ策では、一時しのぎの域を出ません。中長期的に収益を上げることを前提に価格戦略を組み立てる「プライシングマネジメント」の重要性が高まっています。

効果◆長期に利益確保

 プライシングマネジメントでは自社の事業戦略と客観的なデータに基づいて、収益力の向上を目指します。営業マンの経験や勘、顧客の反応を頼りに価格を決めるのではなく、その商品・サービスの事業戦略上の位置付けや、顧客に提供する価値に見合う収益を確保できるかといった観点で価格戦略を構築していきます。そのため、営業やマーケティングなどの現場担当者はもちろん、事業全体の責任者や経営層も深く関与する必要があります。

 価格の引き上げ時に、それに見合う価値の向上を顧客に提供するのは当然のことです。そのうえで、例えば値上げで得た利益の増額分を設備投資に回し、これによって製造コストを改善してさらに収益力を高めるといった戦略の構築が必要です。

 トーマツコンサルティングの小高正裕マネジャーは「次の収益拡大にどうつなげていくかという、長期に利益を確保する戦略まで立てていなければ、プライシングマネジメントとは言えない」と指摘します。こうしたプライシングマネジメントが巧みな企業は「株主価値を向上していると株式市場でも高く評価される傾向がある」(トーマツの小高氏)といわれています。

事例◆航空2社が好例

 最近のプライシングマネジメントの成功例として、日本航空と全日本空輸が一部の国内便で導入した“国内線ファーストクラス”が挙げられます。日本航空は普通料金より1000円高い価格で提供していた「クラスJ」に加えて2007年12月、「ファーストクラス」を導入。全日空も2008年4月、従来の「スーパーシートプレミアム」を一新して「プレミアムクラス」を設けました。どちらの座席も普通料金より数千円高くなるにもかかわらず、ゆったりとしたシートや充実した機内食の提供などで高い搭乗率を記録しているようです。提供する価値の向上が見合うなら、値上げをしても顧客を呼び込めることを示しています。