野球記録の統計的な研究。もともとは好事家が趣味で分析していたが、成果が実際のプロチームで選手の獲得・起用や試合中の戦術立案などに生かされるようになった。

 野球は数値データが豊富なスポーツです。投球や打撃、走塁、守備といったプレーのすべてが数値で記録されます。米国では1970年代に入り、ひいきのチームや選手を球場やテレビで応援するのではなく、試合記録を統計的に分析して楽しむ野球ファンが急増しました。彼らの高度なデータ分析は「セイバーメトリクス」と呼ばれています。打率や防御率に代わって、打者を評価する「OPS(オーピーエス)」や投手を評価する「DIPS(ディーアイピーエス)」といった新しい指標はこうした流れから生まれてきました。

 セイバーメトリクスは、「SABR(アメリカ野球学会=ソサエティー・フォー・アメリカン・ベースボール・リサーチ)」と「metrics(測定基準)」を組み合わせた造語です。現在、ボストン・レッドソックスの上級コンサルタントを務める、ビル・ジェイムズ氏が創始者です。プロ野球の統計手法に対する新しい見解を自費出版の小冊子で次々に発表していました。

効果◆低予算で高い勝率

 彼の業績が広く知られるようになったきっかけは、2003年に出版された書籍『マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男』(マイケル・ルイス著、日本語訳は2004年、ランダムハウス講談社)です。ゼネラルマネジャー(GM)のビリー・ビーン氏率いる米オークランド・アスレチックスが資金力はとぼしいのに1999年以降、レギュラーシーズンで好成績を残している戦略を解き明かしたものです。ビーン氏のGM就任後のアスレチックスは、一般的な選手の評価方法とは異なる基準を使うことで、高い評価を受けていないアマチュア選手や他球団の控え選手を低予算で獲得していきました。ビーン氏が参考にしたのがジェイムズ氏の著書でした。

 「スクイズや盗塁はするな」「打率より出塁率を重視せよ」といった独特の方針は、統計分析により導かれた合理的な戦術として採用する球団もほかに出てきています。米メジャーリーグでは、ほとんどの球団がIT(情報技術)ベンダーが提供する分析システムを活用しているそうです。

事例◆日本ではパが活用

 千葉ロッテマリーンズのボビー・バレンタイン監督は統計アナリストを重用し、それが2005年の日本シリーズで阪神タイガースに4連勝した際に大きく貢献したと伝えられています。2006年からパシフィック・リーグを連覇した北海道日本ハムファイターズも「BOS」(ベースボール・オペレーション・システム)と呼ばれる情報システムを選手の獲得や育成に活用しています。オリックス・バファローズは2007年にアスレチックスなどが使う「スカウト・アドバイザー」を導入しました。

参照
今号「改革の軌跡 あのプロジェクトの舞台裏・北海道日本ハムファイターズ」