企業理念を簡潔に記したもの。高級ホテルチェーンの米ザ・リッツ・カールトンや医療品大手の米ジョンソン・エンド・ジョンソンの社員が携帯するクレドカードは有名。

 スタッフ一人ひとりの創意工夫を凝らした接客によって、日本でも有名なザ・リッツ・カールトン・ホテル。競合他社はもちろん、様々な業界の会社がその接客ぶりをベンチマークしています。例えば、2005年夏の高級自動車ブランド「レクサス」の国内販売に先立ち、トヨタ自動車の販売店のゼネラルマネジャーたちがリッツで研修を受けました。

 リッツのスタッフが高度な接客ができるのは、四つ折で名刺サイズになる「クレドカード」を常時携帯し、毎日頻繁に読み返すことで、従業員満足と顧客満足を何よりも大切にする価値観を血肉化できているおかげです。カードには、「お客様への心のこもったもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています」というくだりで始まる「クレド(経営理念)」、基本的な接客手順「サービスの3ステップ」、12の行動指針「サービス・バリューズ」などが記載されています。

 リッツの各職場では毎日朝礼がありますが、そこでカードに記載された十数項目の中から1つを選び、体験談を交えながら議論を尽くしています。その日に選ぶ項目は全世界のリッツで共通しており、半月周期で同じ項目を議論するほどの徹底ぶりです。

効果◆企業理念を身近な存在に

 一般に、企業規模が大きくなり創業の経緯を知らない社員が増えてくると、創業者が抱く思いは遠い存在になりがちです。理念や価値観は、企業によって似て非なるものであり、企業の個性を生み出す源泉です。この個性こそが、商品やサービス、接客の差別化要因となります。企業が長期的に成長し続けるうえで、個性は極めて重要なのです。

 また、日々の様々な業務において決断を下さなければならない時、個性が強い企業であればどの社員もあまりぶれのない決断ができるでしょう。

 企業ごとの理念や価値観に基づき、社員一人ひとりが柔軟かつ迅速な判断を下せるようにするために、使い方次第ではクレドカードが有効なツールとなり得るのです。

事例◆クレド役員を設置

 約5年前に50以上のホテルを4ブランドに再構築する際、東急ホテルズ(東京・渋谷)はブランドごとの顧客価値を明確化し、スタッフに浸透させるために、名刺サイズのカードを作りました。これもクレドカードの一種です。

 こうした接客を重視する業界だけでなく、製造業でもクレドカードを活用する例がいくつもあります。代表的なのは、米ジョンソン・エンド・ジョンソンです。「チーフ・クレドー・オフィサー」という幹部職まで設け、理念の浸透を重要な経営戦略の1つと常に位置付けています。

参照
本誌2008年1月号「特集2・讃え合う組織」、2007年9月号「特集1・リーダーの品格を磨け」、2006年5月号「業務革新ビフォー・アフター・東急ホテルズ」