パソコンと比べ、ケータイにおけるネットマーケティング環境の整備は遅れている。パソコンでは普通に実現できることがケータイではできないことはざらにある。

 アクセス解析もその一つ。パソコンではCookie(クッキー)というブラウザーが搭載する標準機能を使って個体を識別し、アクセスしてきたユーザーの行動を解析できるが、ケータイにはそもそも個体識別のための標準的な仕様は存在しない。携帯電話事業者によっても対応がさまざまだった。こうしたなか、NTTドコモが2008年3月31日に提供を開始した個体識別ID「iモードID」は、ケータイマーケティングを一気に普及させる可能性を秘めている。

 NTTドコモはこれまで、UID(UserID)、UTN(携帯電話製造番号)という二つの識別IDをケータイサイト運営企業に提供してきた。UIDは公式サイトに加盟しているケータイサイトでのみ利用できる12文字の英数字からなるIDで、主にコンテンツの課金時などで個人を識別するために使われているものだ。

 一方、UTNは公式サイト、および公式サイトに加盟していない一般サイトの両方で使える、携帯電話端末を識別するための35文字の英数字からなるID。コミュニティサイトなどのケータイサイトでユーザーのログイン作業を簡易化するために使われていることが多い。ただ、端末を変更すると識別IDは変わるほか、IDの送信/非送信の確認画面がユーザー側に表示されるなど、企業にとっては使いづらかった。

 新しく提供の始まったiモードIDは、7文字の英数字で構成される識別IDで、公式サイトと一般サイトの両方で使用可能なうえ、利用者へはサイト側の取得が通知されない点がメリット。しかも、ユーザー側が端末を変更しても、電話番号を変更しなければIDが変わらないため、企業にとっては非常に使いやすい識別IDだといえる。

 実はNTTドコモが提供を開始したiモードIDと同様の識別IDはau(KDDI)、ソフトバンクモバイルなどが既に提供済み。にもかかわらず、ケータイのアクセス解析を行っている企業は「暗号通信(SSL)では使えないなどの制限はあるものの、iモードIDの開始の影響は大きい」と評価する。なぜならNTTドコモは5000万人を超える加入者を抱え、依然として50%を超えるシェアトップの事業者だからだ。逆にいえば、これまでのケータイサイトのアクセス解析はかなり不完全なものだったともいえる。

 iモードIDの登場により、広告の効果測定、行動ターゲティング、自社サイトのアクセス解析などが可能になり、より緻密なケータイマーケティングが今後一気に進むだろう。