文・冨安 昭亘(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 シニアコンサルタント)

 「WCAG 2.0」とは、インターネットに関する技術開発と標準化を行っている国際的団体であるWorld Wide Web Consortium(以下、W3C)が、Webアクセシビリティを確立することを目的として、WCAG1.0の改定版として公表した12項目のガイドラインと達成基準等で構成されるドキュメントのことです。

 近年、Webサイトで情報を得ることが一般的となりつつあるものの、こうして提供されているサービスや情報の中には、利用環境や身体的能力を考慮せずにデザインされているものも少なくありません。WCAG 2.0は、WCAG1.0をよりユーザ主体に改訂したもので、その項目が必要な理由について具体例を挙げるなど、分かりやすく説明しています。

WCAG 2.0策定の背景/構成と概要

 W3Cでは、障害者を含む誰もがWebを利用しやすいものにするために、1997年4月にWeb Accessibility Initiative(以下、WAI)というワーキンググループを設置し、Webアクセシビリティの実現方策の検討を開始しました。

 1999年5月には、Webコンテンツのアクセシビリティ指針として、WCAG1.0が勧告されました。このWCAG1.0は、Webコンテンツをアクセシブルにする方法を、14項目のガイドラインと65項目のチェックポイントで説明したもので、各国のWebアクセシビリティ指針やガイドラインに大きな影響を与えましたが、HTML等の特定技術に依存したものになっている等、いくつかの課題もありました。

 そこで、WAIでは、WCAG1.0の策定直後から、WWW技術の進展やWCAG1.0への各種意見を踏まえてWCAG1.0の改定に関する検討を行い、2001年1月の草案公開から7年以上の検討や改変を経て、2008年4月30日にWCAG 2.0勧告候補を公開しました(W3Cの報道発表)。

 WCAG 2.0は、次に挙げるWebアクセシビリティ4原則に基づいて12項目のガイドラインを分類しています。

表●WCAG 2.0の4大原則と12項目のガイドライン
原則 ガイドライン
1.Perceivable
利用者が情報やインタフェース要素を認知できること
1.1:
あらゆる非テキストコンテンツには代替テキストを提供する
1.2:
時間に伴って変化するメディアには代替コンテンツを提供する
1.3:
情報や構造を損なうことなく、様々な方法で提供できるようにコンテンツを製作する
1.4:
ユーザーがコンテンツを見やすくしたり、聞きやすくしたりする
2.Operable
利用者がインタフェース要素を操作できること
2.1:
すべての機能をキーボードから利用できるようにする
2.2:
ユーザーがコンテンツを読んだり使用したりするのに十分な時間を提供する
2.3:
てんかん発作を引き起こす可能性のあるコンテンツは設計しない
2.4:
ユーザーがコンテンツを探し、現在位置を確認し、コンテンツ内を移動するのを手助けする手段を提供する
3.Understandable
利用者が情報やインタフェース操作を理解できること
3.1:
テキストコンテンツを読みやすく理解できるものにする
3.2:
ユーザーがウェブページの表示や動作を予測できるようにする
3.3:
ユーザーが間違えないようにしたり、間違いを修正するのを手助けする
4.Robust
コンテンツや支援技術が堅牢であること
4.1:
現在および将来の支援技術を含むユーザーエージェントとの互換性をサポートする

 このWCAG 2.0は、技術の進歩が激しいWebの世界で将来に渡って利用することができるよう特定の技術に依存しない形式で記述しており、技術ごとの文書は別に定めています。

 また、それぞれのガイドラインには、3段階(Level A、AA、AAA)の達成基準が定められています。これらの達成基準は、特定の技術に依存しない形で記述されている、コンピュータプログラムを使ったテストができる等、複数の専門家が評価しても同じ結果が得られるよう配慮されています。

図●WCAG 2.0の構成概要