文・大林 勇人(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 シニアコンサルタント)

 「ふるさとケータイ事業」とは、国民に広く普及している携帯電話を活用した各地域の需要に合わせたサービスの実現によって、地域の活性化、地域住民へのサービス向上、情報化の遅れやデジタルデバイドの解消を目指す事業のことです。

図1●「ふるさとケータイ事業」のイメージ
出典:「ITによる地域活性化等緊急プログラム」(平成20年2月19日 IT戦略本部)

 「ふるさとケータイ事業」は、IT戦略本部が2008年2月に公表した「ITによる地域活性化等緊急プログラム」で初めて構想が打ち出されました。具体的には、地域の高齢者が使いやすいように端末の機能を一部限定したサービス、GPS機能を用いた高齢者や子供のモニタリングサービス、地域住民に商店街の特売情報や地域のイベント情報を提供するサービス等が想定されています。

 また、自治体や警察、消防、学校、商店街など地域の主な機関の協力を得て、災害・防災、観光、イベント情報など専用サイトの開設も検討されています。

MVNOによるデジタルデバイド解消を狙う

 「ふるさとケータイ事業」が打ち出された背景のひとつとして、デジタルデバイドの存在が挙げられます。デジタルデバイド解消は、日本にパソコンやインターネットが普及し始めてから10年来の課題です。

 日本のIT戦略では、「e-Japan戦略」(2001年1月)、「e-Japan戦略II」(2003年7月)、「IT新改革戦略」(2006年1月)と、いずれにおいてもデジタルデバイド解消が謳われています。このことからも分かるように、デジタルデバイドは、一朝一夕では解消できないほど大きな問題といえます。

 デジタルデバイドの解消を目指す「ふるさとケータイ事業」において極めて重要な役割を果たすのが、MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)です(ふるさとケータイ事業は「地域を対象とするMVNO」とも呼ばれています)。

 MVNOとは、通信設備を持たない事業者が、通信設備をMNO(Mobile Network Operator:既存の携帯電話事業者)から一部借り入れてサービスを提供する方式ないしはサービス提供事業者のことを指します。従来、日本では通信設備を持つには第一種通信事業者として認定を受ける必要がありましたが、MVNOであればその資格を必要とはせずに通信事業に参入できます。欧米などでは、携帯電話事業において一般的な仕組みとなっています。

図2●MVNOのイメージ図
出典:総務省ホームページ

 デジタルデバイドの解消が困難である主な理由は、ブロードバンドサービスの利用者数が少ない地域では初期投資の回収が難しく、既存の通信事業者がサービス提供に二の足を踏んでしまうためだとされています。これに対してMVNOの場合、大規模な投資を必要とせずに、「ふるさとケータイ事業」で想定されているような小さな地域に適したきめ細かいサービスを提供可能になります。このことによって、特に地域の高齢者に関するデジタルデバイドが解消に向かうのではないかと期待が寄せられています。

自治体や地元企業が参画する実証実験が開始

 「ふるさとケータイ事業」は、2007年10月から総務省が定期開催している「デジタル・ディバイド解消戦略会議」においても検討がなされています。同会議が2008年3月にまとめた「デジタル・ディバイド解消戦略会議 第一次報告書」では、ふるさとケータイ事業を推進する際の政府として実施すべき具体的取り組みとして、ネットワーク基盤の整備や公共アプリケーションの開発等についての支援策の検討、モデル事業の実施による具体的な事業展開に際しての課題やその解決策の抽出、事業の立上げのためのマニュアルやベストプラクティスの作成などが挙げられています。

 それに加えて報告書では、地方においても、事業に関心をもつ自治体、MVNO、メーカー等で構成する協議会等を開催していくことが提唱されています。この組織は、情報共有と課題解決に向けた検討を進めることや、複数の自治体の共同購入による端末調達コストの削減、携帯電話事業各社において標準的な卸料金プランを提示するといった普及・実現に向けた具体策を示す場となります。

 さらに、デジタル・ディバイド解消戦略会議の報告内容を受けた実証実験が、京都府の宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町の4市町で2008年11月から開始されます。具体的には、丹後通信(宮津市)がMVNOとなった上で、予定携帯電話の全地球測位システム(GPS)を活用し、観光客の位置に合わせておすすめのコースを案内するほか、バスや電車の時刻情報をリアルタイムで配信するといったサービスが検証される予定となっています。ほかにも、徳島県三好市地域で既に実証実験が開始されており、今後の展開が期待されます。