図1 携帯電話とノート・パソコンの“いいとこ取り”をしたUMPC(イラスト:なかがわ みさこ)
図1 携帯電話とノート・パソコンの“いいとこ取り”をしたUMPC(イラスト:なかがわ みさこ)
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図2 ネットワークを活用すれば普通のパソコンと同等に使える(イラスト:なかがわ みさこ)
図2 ネットワークを活用すれば普通のパソコンと同等に使える(イラスト:なかがわ みさこ)
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 UMPCとは,Ultra Mobile PCの略称で,モバイル利用に適した超小型のノート・パソコンのことだ。一般にノート・パソコンより小型で,携帯電話やスマートフォンよりも大きく,パソコンと同等のOSやアプリケーションが動くマシンがUMPCである。国内で代表的な製品は,ウィルコムが2008年7月に発売した「WILLCOM D4」。Windows VistaをOSに採用し,5インチ型液晶にフル・キーボードも備えながら,重さは500g以下と持ち運びやすくなっている。

 UMPCは元々,2006年3月に米マイクロソフトや米インテルが発表したハードウエアの規格だった。当時は,Windows XPのTablet PC EditionをOSに搭載し,7インチ型以下のディスプレイ,900g程度の重さといった仕様が定められていた。しかし,時間を経るごとにUMPCの概念は広がってきた。ハードウエアの仕様でUMPCを語るのではなく,小型でモバイルでの利用シーンに適した形態のパソコンをUMPCと呼ぶことが多くなってきた。

 現在ではUMPCとは,「WindowsやLinuxなどパソコン向けの汎用OSが稼働し,一般のノート・パソコンより小型のモバイル端末」を指す言葉として使われている。ノート・パソコンの操作性やアプリケーションの使い勝手を維持しながら,携帯電話のように毎日持ち運べる程度に小型化したマシンといえる。いわば,ノート・パソコンと携帯電話から,モバイル利用を前提にして「いいとこ取り」をしたマシンがUMPCである(図1)。

 とはいえ,超小型のパソコンというだけならば以前にも市場に投入されたことがある。ではなぜ今になって話題になっているのか。

 その要因は,携帯電話などの無線データ通信の環境が進化したことにある。パソコンを小型にすると,どうしてもCPUの処理性能やHDDの容量といったスペックが低くなりがちだ。以前「ミニノート」と呼ばれたパソコンは,非力なパソコンとして使わざるを得なかった。

 しかし今では,国内でも最大7.2Mビット/秒のモバイル・ブロードバンド・サービスが,定額料金で使える。UMPCは無線LAN機能を標準的に搭載しているので,公衆無線LANサービスを活用すれば,高速なモバイル・アクセスが可能だ。今後,モバイルWiMAXなどのサービスが始まると,利用できるネットワークの選択肢が増えていく。モバイル環境でも自在にネットワーク上のサーバーなどにアクセスできるようになる。

 メールはWebメールで確認・送信し,Office文書もサーバー上のオンライン・アプリケーションで読み書きでき,さらには会社の業務システムもWebベースで作られている──。こうなると,ネットワークに高速で接続できる環境があれば,ローカルで画像編集をするといったような使い方以外では,高性能なノート・パソコンとの差があまりなくなってくる(図2)。インターネット上の各種サービスの進展と,無線通信のインフラ整備が相まって,UMPCの普及を後押ししているのだ。

 無線ネットワークを活用した小型パソコンという意味合いが強くなるにつれ,UMPCの指す領域はさらに拡大している。台湾アスーステック・コンピュータの「EeePC」シリーズが代表的製品である超低価格ノート・パソコン「ULCPC」(ultra low cost PC)も,UMPCの一種といえる。5万円前後の低価格で,ネットワークとの連携を前提とし,処理性能や記憶容量を割り切った仕様のノート・パソコンである。

 スマートフォンに近いサイズで,インターネット利用を主用途としたMID(mobile internet device)もUMPCの一つに挙げられる。LinuxをOSに搭載する製品などが海外で発表されている。WILLCOM D4もサイズ的にはMIDの一種といえる。さらにUMPC向けに,インテルが低消費電力で低価格なプロセッサのAtomやCentrino Atomを投入し,製品が作りやすくなってきた。UMPCは今後のモバイル端末として有望なジャンルといる。