図1 WAN側のインターネット接続回線に無線を使うルーター(イラスト:なかがわ みさこ)
図1 WAN側のインターネット接続回線に無線を使うルーター(イラスト:なかがわ みさこ)
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図2 回線のバックアップや手軽なWAN回線として使う(イラスト:なかがわ みさこ)
図2 回線のバックアップや手軽なWAN回線として使う(イラスト:なかがわ みさこ)
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 「ワイヤレス・ルーター」と呼ばれる製品が登場している。ワイヤレス・ルーターとは,インターネット接続のWAN回線の部分に無線を使うルーターのことである。「モバイル・ルーター」とも呼ぶことがある。企業ネットワークのさまざまな場面で活用が見込まれおり,積極的に利用する企業も出てきている。

 「無線を使うルーター」というと,LAN側の回線として無線LAN機能を搭載したブロードバンド・ルーターを思い浮かべるかもしれない。無線LAN機能を持つパソコンからのアクセスを受け付け,インターネット側のWAN回線(有線)にトラフィックを流すルーターのことだ。

 ワイヤレス・ルーターは,こうしたこれまでのルーターとは機能が異なっている。ワイヤレス・ルーターは,「LAN側の通信」でなく,インターネットにつながる「WAN側の通信」に無線を利用するルーターである。また,無線といっても「無線LAN」ではなく,携帯電話やPHSなどのデータ通信サービスを使う。つまり,社内LANのユーザーからのアクセスを受け付け,そのトラフィックを携帯電話やPHSの電波を使ってインターネットに運ぶ機能を持ったルーターが,ワイヤレス・ルーターというわけだ(図1)。

 ワイヤレス・ルーターは,ルーターのきょう体にPCカード・スロットやUSBポートを備えている。PCカード・スロットに携帯電話のデータ通信カードを差し込んで使ったり,USBケーブルを介してルーターと携帯電話をつないで使う。

 ワイヤレス・ルーターは各社から製品が登場しているが,その背景には携帯電話サービスの高速化がある。

 現在,一般的に使われている携帯電話は,第3世代(3G)と第3.5世代(3.5G)の携帯電話である。基地局から携帯電話端末までの下り方向の通信速度は,数百k~数Mビット/秒である。

 例えば,NTTドコモやイー・モバイルは,HSDPA(high speed downlink packet access)と呼ばれる3.5Gの携帯電話規格を使って,最大7.2Mビット/秒のデータ通信サービスを提供している。これは,実環境においてもメガ・クラスの通信速度を期待できるレベルである。月額5000円程度で使い放題のサービスも登場しており,これまでインターネット接続に使っていた ADSL回線やFTTH回線の代わりに,こうした無線通信のサービスを使う環境が整ってきたわけだ。

 ワイヤレス・ルーターは,企業ネットワークにおいて,さまざまな場面で活用が見込まれている(図2)。

 例えば,災害発生時などのバックアップ回線としての利用がある。地震や暴風などで通信ケーブルが切れてしまった場合,復旧するまでに長い時間がかかる。こうしたときでも,携帯電話によるアクセスが可能であれば,無線をバックアップ回線として使うことで業務を継続できるのである。

 ワイヤレス・ルーターは,有線の回線を用意しにくい場所でのネットワーク接続用途としても有効である。例えば,山間部や離島など有線の回線を敷設しにくい場所や,構内に配管・配線がないビル内などだ。こうした場所でも携帯電話の電波が届く環境ならば,ワイヤレス・ルーターを使って手軽に社内ネットワークを構築できる。

 また,工事現場やイベント会場のように,ネットワーク接続環境が一時的に必要となるケースもある。従来はこうした場合,そのつど光ファイバの引き込み工事やLANの敷設工事をする必要があった。ワイヤレス・ルーターを使えば,こうしたケースでも手軽にWAN回線を確保できるわけだ。

 さらに,通常のデータ通信は有線回線を使い,緊急時のリモート・メンテナンス用途としてワイヤレス回線を使うという方法もある。

 2010年ころには,下りの通信速度が100Mビット/秒を超える3.9Gの携帯電話規格を使うサービスも登場する予定である。ワイヤレス・ルーターの活躍の場は,今後ますます広がりそうだ。