両立しにくい業務目標を浮かび上がらせて全体最適を図るTOC(制約条件の理論)のコンセプトを企業全体の活動に適用して、利益の大幅増を図るフレームワーク。

 TOC(制約条件の理論)は、問題を局所的、部分的に解決しようとするのではなく、企業活動というトータル・システムのなかで改革を進めるための問題解決手法として知られています。

 TOCを生んだエリヤフ・ゴールドラット氏は『ザ・ゴール─企業の究極の目的とは何か』(ダイヤモンド社刊)といった著書を通じて、工場の個別の工程で在庫を減らそうと努力するのでなく、ライン全体のバランスを考えてボトルネック工程を管理する手法を導入すべきだと提言してきました。

 こうした全体最適の実現を、生産関連の1部門だけでなく、企業全体に拡張しようという新しい TOCの手法が「バイアブル・ビジョン」です。

 TOC流生産管理手法のDBR(ドラム・バッファー・ロープ)、TOC流プロジェクト管理手法のCCPM(クリティカル・チェーン・マネジメント)などをうまく組み合わせて顧客の満足度を高め、企業価値を引き上げようというものです。

効果◆高付加価値の事業モデルを提示

 バイアブル・ビジョンは、業種や顧客、取り扱う製品の競争ポイントは何であるかといった業態に応じて6つのテンプレートを用意しています。このテンプレートは「S(戦略)&T(戦術)ツリー」とよばれるロジックツリーになっており、高付加価値なビジネスモデルを表しています。

 例えば、テンプレートの1つである「確実な短納期(Reliable Rapid Response)」は、量産型生産財のメーカーであり、かつ、短納期が競争優位に結びつく企業が対象です。既存の企業にたとえると、試作用プリント基板を注文から最短1日で届ける事業で急成長したキョウデンのようなビジネスモデルです。

 S&Tツリーは最上位の目標に「4年以内に利益を現在の売上高にまで引き上げる」といった目標を設定し、ツリーの下部ではその実現手段として「納期順守率を99%以上にする」「生産リードタイムを4分の1にする」などと因数分解して、必要な戦術に落とし込んでいきます。これらを最下層から実現していけば、利益や売り上げの大幅な増加が達成できるというものです。

事例◆インドで導入進む

 2007年11月のTOCの国際大会では、バイアブル・ビジョンの導入事例の発表がありました。

 そのなかで注目されたのが、インドの鉄鋼会社タタ・スチールです。2005年6月から市場価格変動に影響されない企業体質づくりを目指してバイアブル・ビジョンに取り組み、CCPMも取り入れながら870万ドルのコスト削減を達成したと発表しました。納期遅れによる損害額は1年間で91.4%削減したとしています。