民事訴訟の当事者に、関連した電子メールや図面など、内部の電子データ開示を求める米国の制度。データを提示できないと、制裁を受けるなどの不利を被る。

 2007年夏、特許侵害で訴えられて争っていた東芝の米国法人が米国の地方裁判所から、弁論時間の大幅削減といった、敗訴に直結しかねない厳しい制裁命令を受けました。

 東芝が制裁を受けた理由は、「ディスカバリー」という米国の民事訴訟独特の証拠開示制度への対応を誤ったことです。争点はパソコンのメモリーに関する特許でしたが、関連するソフトウエアのソースコードを故意に隠したことが制裁の理由となりました。

 米国では原告と被告は、内部情報も含めて、訴訟に関連した証拠の全面的な開示を相手に要求できます。証拠を持っているのに隠しているとみなされると、制裁の対象になります。

 こうした背景から、パソコンやサーバーに保存した図面や文書などの電子データを対象にした「e-ディスカバリー(電子証拠開示)」の重要性も急速に高まっています。米国で事業を展開する日本企業も知っておかなければならない制度です。

課題◆日本企業にも影響

 米国は2006年12月に訴訟規則を改正し、e-ディスカバリーに関する手続きを明確化しました。e-ディスカバリーの動向に詳しいUBICの守本正宏社長は「今回の改正で、電子証拠があるのに『出せない』とは言えなくなった」と指摘します。米国で訴訟を起こされれば、日本の本社やデータセンターなどにある電子証拠もすべて開示対象になります。

 電子証拠になるデータだけを過不足なくシステムから取り出すのは、いざとなると大変な作業です。例えば、電子メールや図面データなどから、「メモリー」など一定のキーワードに沿って、証拠に当たるものを検索・抽出する作業が必要になります。

 抽出作業が不十分だとその後の証拠調べに手間を要して弁護士費用がかさみます。さらに、必要以上に情報を出してしまうと機密情報を訴訟相手に漏らすことにもなります。実際にe-ディスカバリー制度を悪用して、機密情報を入手する目的で訴訟を起こすケースもあるようです。

対策◆データ所在を把握

 米国にはこうした抽出作業を請け負う専門業者がありますが、日本語データの扱いに慣れていない場合も多いようで、注意が必要です。

 実際に訴訟を起こされる前から、日常的に電子データの所在や保管状況について把握しておく備えも必要です。「あるはずの情報がどこにあるか分からない」「電子メールが一切保管されていない」といった弁明は訴訟で不利になります。これは日本版SOX法などほかの法令への対応にも通じます。