図1 みんなで共有すれば,スペースを有効活用できる(イラスト:なかがわ みさこ)
図1 みんなで共有すれば,スペースを有効活用できる(イラスト:なかがわ みさこ)
[画像のクリックで拡大表示]
図2 安くておなじみの通信手段を使える技術もある(イラスト:なかがわ みさこ)
図2 安くておなじみの通信手段を使える技術もある(イラスト:なかがわ みさこ)
[画像のクリックで拡大表示]

 SAN(storage area network)は,ハードディスクや磁気テープなどの外部記憶装置(ストレージ)とサーバーを接続する高速なネットワークのこと。企業のシステムで,ストレージ装置をより効率的に使い,バックアップなどの管理を楽にしたいという要望から生まれてきた。SANを導入すると,複数のサーバーでストレージ装置を共有し,それぞれのサーバーに必要な容量を割り当てるようなしくみを構築できる。

 従来は,ストレージとサーバーの間をDAS(direct attached storage)という方式で接続するのが主流だった。DASでは,サーバーとストレージを直結するので,各ストレージのリソースは特定のサーバーが専有する。そのため,柔軟な運用ができなかった。

 SANの形態にはいくつかの種類があるが,現在は複数のサーバーとストレージ装置を「SANスイッチ」と呼ばれる機器につなぎ込む構成が一般的である。こうすることで,各サーバーからストレージのリソースを有効に使えるようにする。

 例えば,ある部署で各社員に一つずつのロッカーを割り当てたとする。荷物が多くてロッカーの周囲に書類があふれている人もいれば,ロッカーの中がガラガラの人もいるだろう。これを,全員が共通の棚を使うことにすれば,あふれていた書類が綺麗に収まり,しかもスペースに余裕ができる(図1)。これがSANのイメージである。このほかSANを使ってストレージを共有すれば,今まではサーバーごとに個別に実行していたバックアップをまとめて実行できるといったメリットもある。

 また,従来のDASでは一般に,銅線ケーブルを使うSCSI(small computer system interface)という規格を利用する。SCSIには,接続できる機器の台数は最大16台で,ケーブル長は最大25mという制限がある。そのため,サーバーとストレージを接続する際には,機器の配置や配線の取り回しが難しくなる。

 一方,現在のSANでは光ファイバ・ケーブルを使ったファイバ・チャネル(Fibre Channel)というプロトコルを使うことが多い。ファイバ・チャネルは機器の最大接続台数が125台,ケーブル長は最大10kmまでと,SCSIよりも柔軟な機器配置が可能となる。伝送速度で見ても,4Gビット/秒の製品が主流のファイバ・チャネルに比べ,SCSIは最も高速な仕様でも最大2.56Gビット/秒(320Mバイト/秒)となっている。このため,多くのサーバーやストレージから成る大規模なシステムでは,ファイバ・チャネルを使ったSANを導入した方が効率的と言える。

 ただし,SANスイッチなどの専用機器を導入してSANを構築するには,それなりにコストがかかる。ファイバ・チャネルのようにLANとは異なる技術のノウハウも必要となる。

 そこで,最近はSCSIのコマンドやデータをTCP/IPパケットでカプセル化する「iSCSI」や,ファイバ・チャネルをイーサネットでカプセル化する「FCoE」(Fibre Channel over Ethernet)といったプロトコルが登場してきた。これらを使ってSANを構築すれば,サーバーとストレージをLANの技術で接続できるようになる。ネットワーク機器も,従来使っていたものを利用可能なので,ファイバ・チャネルより導入コストを抑えられる。以前は書類を棚まで運ぶのに,高い専用カート(ファイバ・チャネル)しか使えなかったのが,他の荷物の運搬にも使っている,安くて一般的なカートが使えるようになったイメージだ(図2)。

 なお,iSCSIには,オーバーヘッドが大きいといった問題点もあるが,「SANを使ってみたいが予算が少ない」という企業には,有効な選択肢と言えるだろう。