エンゲージメントとは、商品、ブランド、番組/コンテンツなどに対する消費者の積極的な関与や行動。マーケティング業界では“顧客エンゲージメント”などの表現で普通名詞として使われてきたが、米国の広告関連業界団体が、テレビCMのGRP(延べ視聴率)やインターネット広告のインプレッションといった従来の広告指標に代わる新しい定量指標として提唱・定義したことで、注目を集めている。“きずな”と訳す場合もあるが、まだ定着した日本語訳はない。

 普通名詞としての意味合いは、何かに積極的にかかわろうとする態度や行動。マーケティング業界では、消費者が各種メディアを通して触れるコンテンツや広告メッセージにより、特定のコンテンツや商品/ブランドに対して、好感やロイヤルティーを抱いたり、さらには顧客ではなくあたかもブランドの共同所有者であるかのように、自ら進んでブランドなどの浸透を周囲に働きかけるなどの行動を指す。

 効果指標としてのエンゲージメントは、ブランドや商品を消費者に認知させるだけでなく、購買に至る多様な能動的行動につながるような“要求(デマンド)”を消費者の心理に芽生えさせ、表面に出てきた行動によって、広告などの効果を測るという考え方に基づく。視聴率やインプレッションなど、従来の広告指標がマス媒体による“露出(exposure)”という広告主側からの一方向の発信を基にしていたのに対して、あらゆるコンタクトポイントを通して引き起こされる消費者の積極的な行動を指標化するという点が大きな違いである。

 新しい指標としてエンゲージメントが提唱された背景には、インターネットの普及などメディアが多様化するのに伴い、マス媒体ではテレビ視聴率の低下や、新聞・雑誌の販売部数の減少が発生。従来の「到達数×頻度」に基づく指標では、広告価値が縮小し始めたという事情がある。広告関連業界では、縮小し始めた視聴率などの従来指標に代わる新しいものさしが必要になっている。

 米広告調査協会(ARF:Advertising Research Foundation)が2006年3月に発表した測定指標としてのエンゲージメントの定義は、「プロスペクト(顧客や潜在顧客)を、周囲のコンテクスト(文脈)で増幅したブランド概念に引き付けること」である。“引き付ける”とは、「連想や隠喩(いんゆ)を活性化して、パーソナル化されたブランドの意味を共同で作り出すこと」としている。定義・指標化には、全米広告主協会(ANA:Association of National Advertisers)、米国広告業協会(AAAA:American Association of Advertising Agencies)も協力している。

 現在、ARFなどの業界団体が主導して、団体加盟企業や大学研究機関などにより定量化のための検討や、数値モデル化のためのデータを集める実地テストなどが進められている。研究会では、ブログのコメントやトラックバックの数を考慮すべきという意見も出ている。ただし、感情的な側面を持つ消費者の行動をどこまで定量化できるのか、取り組み自体を疑問視する声もある。