ステルスマーケティングとは、社員、アルバイト、ボランティアなどが中立的な一消費者を装って、周囲に宣伝と気付かれないように商品を宣伝したり、商品に関するクチコミの発信・伝播を図る行為。露店などでの古典的な集客手法である“さくら”に近く、“やらせ”として消費者の批判の的になりやすい。典型的な方法は、街頭や飲食店で当該商品をさりげなく使い、関心を持った近くの人に使わせるというスタイル。最近はブログや動画共有サイトを利用して、クチコミのいっそうの拡大を図る取り組みも広がっているが、疑念を持たれた場合の批判・悪評も大きく増幅される。

 米国で放映されたソニー・エリクソン製のカメラ付き携帯電話の広告は、旅行中のカップルを装ったアルバイトが道行く人に写真を撮ってほしいと頼み、新製品のカメラ付き携帯電話を手渡して、さりげなく新製品をアピールするという内容。たばこやウオツカの新製品でも同じように、バーでライターを借りたり、パーティー会場で酒を勧めたりしながら、特定の商品をアピールするなどの事例がある。

 古典的な“さくら”ではその場で購入まで誘導するのが手口だが、ステルスマーケティングでは、その場では購入は勧めず、体験した感動などを別の人にクチコミで広げてもらうことを目的に実施するケースが多い。消費者が商品選択の際に、テレビなどのマスメディアを通じた広告よりも、信頼できる身近な人のクチコミを信頼するという状況に対応するための手法と言える。

 身元や宣伝であることを隠して消費者をだますという意味で、ステルスマーケティングはしばしば消費者団体などから非難を受けてきた。米ドクターペッパー/セブンアップが2003年3月に発売したミルク飲料「Raging Cow」のブログキャンペーンでは、影響力のある10代のブロガー6人に対し、依頼を請けた事実を隠してそれぞれのブログで商品について取り上げるように指示。内容の不自然さから、ドクターペッパー/セブンアップのキャンペーンブログに批判のコメントやトラックバックが大量に寄せられ“炎上”した。

 最近も、ステルスマーケティングは実行されている。2006年10月には、ディスカウント小売りチェーン、米ウォルマートを担当する広告会社の米エデルマンが企画・公開した旅行ブログ「Wal-Marting Across America」が、やらせを指摘され閉鎖に追い込まれた。YouTubeなどの動画共有サイトでの投稿ビデオによるステルスマーケティングも登場。16歳の少女のビデオ日記シリーズ「Lonelygirl15」は、映画のプロモーションのためのプロの女優による“やらせ”であることを追及された。

 クチコミを利用したバズマーケティング(WOMマーケティング)を推進する米国の業界団体「WOMMA(Word of Mouth Marketing Association)」は、ステルスマーケティングに反対の立場を取っており、倫理基準として、「関係の正直さ」(消費者に対しマーケッターとの関係や金品の授受を明かすなど)、「意見の正直さ」(消費者に何を言うかを強制しないで、消費者の個人的な意見にゆだねるなど)、「身元の正直さ」(消費者に対して身元をぼかしたり誤解を誘うようなあいまいな表現をしないなど)を規定している。