事実上の標準。公的に認定されていなくても、競合企業の多くが採用し、業界標準として多くの企業や利用者に認知されている技術や規格を指す。

 5年ほど前のデジカメ市場では、「コンパクトフラッシュ」「スマートメディア」「xDピクチャーカード」「メモリースティック」「SDカード」など様々な規格が乱立していました。現在では、デジカメの新製品の大半はSDカードを採用しています。コンパクトデジカメでも、一眼レフデジカメでもそうです。

 このように、競争原理によって多くの消費者に支持され、実質的に業界標準の地位を確保した仕様や規格を「デファクト・スタンダード(事実上の標準)」と呼びます。デジカメ用のメモリーカードはここ数年で急速に低価格化が進んだとはいえ、安価ではありません。このためデジカメを買い替える際、既存のカードを流用できる製品を消費者は選びたがる傾向があります。SDカードは、パソコンやテレビなどSDカード・スロットを搭載した周辺機器が多いという優位性によってデファクトの地位をより強固なものにしています。

効果◆デファクトを築いた企業が有利

 デファクト・スタンダードになる規格を自ら作り出したり、先駆けて採用したりした製品は、ほかの規格を採用した製品よりも有利に競争できます。

 デファクト・スタンダード競争の中で有名な事例は、1970年代後半のビデオテープレコーダー(VTR)でしょう。技術的にいくつか優れた点があったベータ規格ではなく、多くのメーカーの支持を得たVHS規格が20年以上もデファクトの座に君臨。VHSを考案して特許を取得し、いち早く新製品を市場に出した日本ビクターが多大な利益を上げました。

 ただし、技術革新の激しいデジタル家電分野ではデファクトの地位が長続きしないケースが増えています。例えば映像を録画するディスク規格がそうです。「DVD-R」「DVD-RW」「DVD+R」「DVD+RW」「DVD-RAM」などが乱立し、レコーダー側が複数仕様に対応することで混乱をしのぎましたが、既に「ブルーレイ」と「HDDVD」による次世代記録メディア競争が始まっています。

事例◆携帯電話で苦戦

 デファクト競争に敗れたために苦しんでいる事業の典型は日本の携帯電話機です。高い技術力を持ちながら、端末メーカーは海外市場で苦戦を強いられ続けています。携帯電話の通信規格には、ITU(国際電気通信連合)が認定する第1世代規格(アナログ方式)、第2世代規格(デジタル方式)、第3世代規格(同)があります。現時点での世界市場のデファクトは第2世代規格の1つ「GSM」です。欧州勢がGSMを戦略的に国際規格に育てました。日本の端末メーカー各社とNTTは第2世代規格として「PDC」を開発したものの、日本以外では商用化されませんでした。