図1 違法なファイルとわかってダウンロードすると著作権法違反に
図1 違法なファイルとわかってダウンロードすると著作権法違反に
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図2 ダウンロードの技術的な定義や,法的な実効性に疑問も(イラスト:なかがわ みさこ)
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 ダウンロード違法化とは,著作権法を改正して「違法にアップロードされたファイルをダウンロードする行為も違法」との考えだ(図1)。今の著作権法では,著作権者に許可を得ずに音楽や動画のファイルをWebサイトにアップロードすることは著作権侵害で違法となっている。その一方,仮に違法にアップロードされたファイルであっても,ダウンロードすることには責任を問われない。

 ダウンロードの違法化を検討しているのは文化庁である。そのきっかけは,音楽業界や映像業界から「インターネットで違法ファイルが流通することで,本来得られるはずの利益が損なわれている」という声が上がってきたためだ。

 ダウンロード違法化を理解するため,著作権法についてもう少し詳しく見ていく。

 著作権法では,著作権者が自分の著作物に持つ権利が定められている。その一つに「送信可能化」の権利がある。「送信可能化」とは「著作物を自動的に公衆に送信し得る状態に置くこと」で,だれでも自由にダウンロードできるインターネットのWebサーバーにファイルをアップロードする行為は,この送信可能化に該当する。このため,著作権者の許可なくファイルを勝手にアップロードすることは,送信可能化の権利を侵害していることになる。

 一方,Webサーバーからのダウンロードは,テレビ番組の録画と同じ「著作物の複製(コピー)」に該当する。著作物の複製は私的使用の範囲,つまり「個人的に,家庭内やそれに準じる限られた範囲内で使用する」ことを前提に基本的に認められている。このときに,複製元が違法ファイルかどうかは関係ない。そのため,「私的使用」の範囲なら,違法ファイルをダウンロードしても責任を問われない。

 ダウンロード違法化では,違法ファイルのダウンロードを「私的使用」と認められる範囲から外すことを検討している。文部科学大臣と文化庁長官の諮問機関「文化審議会著作権分科会」に設置された「私的録音録画小委員会」では,2007年12月の会合で違法ファイルのダウンロードを「私的使用」の範囲から外すという方針をほぼ固めた。文化庁では,2008年夏ころには“最終とりまとめ”として結論を出したいとしている。

 ユーザーとしては,ダウンロード違法化が法制化されると,気付かぬうちに法律違反をしてしまわないかどうかが心配になる。インターネットで動画や音楽を楽しむ際,自分がダウンロードしようとしているのが違法ファイルかどうかをはっきり判断する術がないからだ。

 そこで,今回の法律の改正では,「ユーザーが,著作権者に許可を得ていないファイルと知ってダウンロードした場合」のみを違法とする方針だ(図2)。また,違法となった場合でも刑事罰は科されない見込みである。

 ダウンロードとして扱われる対象についても,まだはっきりとしない部分がある。データをローカルに保存せずに再生する「ストリーミング」や,ローカルにファイルを書き込んでキャッシュとして利用する「疑似ストリーミング」が対象となるのかはまだ整理されていない。どんな技術や行為がダウンロード違法化に該当するのかは文化審議会著作権分科会の「法制問題小委員会 デジタル対応ワーキングチーム」で検討し,必要に応じて条文に盛り込むとしている。

 一方,著作権者側から見ると,「刑事罰がないと実効性がないのでは?」という疑問も浮かぶ。

 もちろん違法ということになれば,刑事罰はなくても民事訴訟で賠償を請求することが可能となる。だが,実際に訴訟を起こすには,「ユーザーがその違法ファイルを本当にダウンロードしたか」,「違法ファイルと知ってダウンロードしたか」を,著作権者側で実証することが求められそうだ。そのためには,違法なファイルがアップロードされたWebサーバーのログを調べたり,場合によってはダウンロードしたユーザーのパソコンを調べたりするなど,大変な手間がかかる。

 とはいえ,ダウンロード違法化が正式に法制化されれば,音楽業界や映像業界は,「違法なファイルのダウンロードは犯罪です」と宣伝することができる。そうなると,ユーザーが違法ファイルをダウンロードする行為を抑止する効果は期待できるだろう。