図 最大560Mビット/秒の無線データ転送技術「TransferJet」 送信用カプラと受信用カプラの距離が3cm程度に近づくとデータ転送が始まる。この図で示したのは,2008年1月の展示会「2008 International CES」でデモした試作機。
図 最大560Mビット/秒の無線データ転送技術「TransferJet」 送信用カプラと受信用カプラの距離が3cm程度に近づくとデータ転送が始まる。この図で示したのは,2008年1月の展示会「2008 International CES」でデモした試作機。
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 TransferJetとは,ソニーが開発した最大560Mビット/秒でデータをやりとりできる無線転送技術。ビデオ・カメラをパソコンの上に載せるだけで動画データを転送する。携帯電話機を携帯型オーディオ・プレーヤにかざすことで音楽ファイルを送る──といった使い方を想定している。

 同社は,2008年1月の展示会「2008 International CES」で試作機によるデモを実施した。エラー訂正や転送用プロトコルのヘッダー部分などを除いた実効速度は375Mビット/秒を確保しているという。実際,CESのデモではデジカメ内の全画像データを数秒でパソコンに転送してみせた。

 TransferJetの最大の特徴は“飛ばない”こと。通信距離はわずか3cm程度にすぎない。“飛ばない”ことでTransferJetは,従来の無線通信技術と比べてシステムがシンプルになるという。他の機器から干渉を受けることもなく,与えることもないからだ。このため,BluetoothやUWB(ultra wide band)では必須の干渉防止技術が不要になる。特別な技術を組み込まなくても,QoS(quality of service)やセキュリティを確保したデータ転送が可能になる。

 TransferJetが“飛ばない”のは,通常の電波(放射電界)の代わりに,誘導電界という現象を使っているため。電波の強さは距離に反比例するが,誘導電界の強さは距離の2乗に反比例する。このため誘導電界は,近距離では強い電界を作るが,距離が長くなると急激に減衰する。この特性から通信距離は波長で決まる。TransferJetは日米欧で免許申請なしに使える無線周波数ということで4.48GHz帯を選んだ。波長は約6.7cmとなる。ソニーによれば,5cm程度の距離なら通信が可能で,3cmまで近づくと最大転送速度の560Mビット/秒で通信できるという。電界の強度に応じて,段階的に速度を変えるしくみも備える。

 ただし,誘導電界を利用するTransferJetは,送受信器として従来の無線アンテナが使えない。そこでソニーは,カプラと呼ぶ電磁結合方式のアンテナを開発した。送信用カプラを受信用カプラに近づけていき,その距離が3cm程度になると,送信用カプラから発生する誘導電界の強い領域に受信用カプラが入る(図)。受信用カプラでは誘導電界の変化に応じて転送されたデータを再生できるしくみだ。

 ソニーでは2009年度中にTransferJetの実用化を目指している。対応製品を発売するほか,技術仕様の公開を予定している。