商品価値の中で、性能や機能、コストとは別に、消費者から感動や共感を得ることによって認められる価値のこと。商品価値の新しい評価軸として注目されている。

 日本のものづくりは、これまで高性能で信頼性が高い製品をいかに安くつくるかに注力してきました。しかしながらアジア諸国の製造能力も向上しています。価格対機能や性能といった評価軸では、他国のほうが強みを持ち始めてきました。

 日本の製造業が生き残っていくには、これまでのようにコストや機能を向上させることに加えて、新しい軸での顧客へ訴求することも必要になってきました。その1つとして注目されているのが、「感性価値」です。

 経済産業省が2007年に発行した『2006年度版ものづくり白書』は、技術的な強みに加えて、感性価値を高めることが他国製品と比べた差異化になり得ると提言したことから産業界の関心を集めました。経済産業省は、感性価値を「生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることによって顕在化する価値」と定義しています。

効果◆新しい需要を喚起する

 特に、各社が提供する製品やサービスの差異化が難しい成熟した産業には、感性価値の視点による商品開発が新しい需要を喚起する力を持つと、ものづくり白書は指摘しています。

 感性価値を強化することは、製品の背景にあって表面には出づらい部分に焦点を当てることになります。つくり手の製品に対する想いや熟練した技術などです。製品が持つ世界観を消費者に訴求して共感を得ることで、商品価値を高めるのです。

 元来日本人は、製造過程の手間やつくり手のこだわりといったことに共感して、価値を見いだすことを好んできました。陶磁器などの伝統工芸品は、感性価値を持つ商品の一例です。

 消費者とかかわりを持てる最終製品だけが、感性価値を実践できるわけではありません。素材であっても、こだわりや思いを積み重ねていくことで感性価値を増大させることが可能になります。

事例◆楽しさを付与

 経済産業省のウェブには、感性価値を持った製品の開発例をいくつか紹介しています。その中で特に評判を呼んだ事例が輪ゴムです。ありふれた製品で、使い捨てられることも多い輪ゴムですが、動物の形にデザインした製品をアッシュコンセプト(東京・台東)が発売しました。使う時は従来の輪ゴムと同じように、何かを束ねたりできますが、使わない時には、犬やキリンといった動物の形になります。機能だけでなく、子供が思わず手にとりたくなるような楽しみを与える製品です。

 ほかにも同省は、シャープの液晶テレビが、「液晶テレビは軽い」ことを消費者に共感してもらえるよう持ち手を工夫したなど47例を挙げています。