架空の顧客像。詳細に設定した顧客のプロフィールを担当者間で共有し、人物像への理解を深めることでマーケティング方針を統一する手法。

 仮面や登場人物を意味する「ペルソナ」は、もともと製品デザインやソフトウエア開発の現場では、どんな顧客がどう利用するのか想像力を喚起するための架空の顧客像を指していました。

 これに対して販促活動などを手掛けるマーケティング担当者の間では、顧客を特定の人物像に絞り込むことはせず、ある属性の集団として捉えるのが通例でした。しかし最近ではマーケティング分野でペルソナが新しい方法論として導入されつつあります。

 ペルソナを作成する意義をデザイナーや開発者以外にも広く知らしめたのは『コンピューターは、むずかしすぎて使えない!』(アラン・クーパー著、翔泳社)でしょう。同書は「機能を多くしてたくさんのユーザーに対応できるようにするより、たった1人のためにデザインしたほうが成功する」と説いています。

効果◆商品やサービスの完成度が高まる

 ペルソナの作成には、裏付けとなるデータが必要です。まずは顧客属性を絞り込みます。年齢や収入、家族構成などです。このために既存の顧客データを参考にしたり、アンケートを実施したりします。

 次に絞り込んだ層から偏りがないように数人を選んで、1人ずつ長時間かけて価値観や個人的な歴史を聞き取ります。商品やサービスを利用している際の行動を観察する方法も使われます。

 こうして定量的、定性的な調査から得た情報を組み合わせて、ペルソナを作り上げます。名前や年齢、住所はもとより、価値観や考え方を表すエピソードや発言を盛り込むと効果的です。プロフィールを記した紙には通常、顔写真も張り付けます。

 ペルソナの効用は主に2つ。1つは顧客の体験を想像しやすくなることです。企業と顧客には製品情報の取得、購入、利用、アフターサービスといった様々な接点が生じます。企業はその接点をトータルで考えながら商品やサービスを開発しなければなりません。不特定多数ではなく、顔のある個人に思いをめぐらすことで商品はよりきめ細かく完成度の高いものになります。

 第2の効用は、開発、営業、広告、販促など担当者間で方針がぶれないようになることです。それぞれが描く顧客像が異なっていては、大きな売り上げは見込めません。

事例◆新製品の販促に活用

 大和ハウス工業は2002年10月に「EDDI's House」を発売する際に3人家族のプロフィールや価値観を書き込んで顔写真を張ったシートを担当者間で共有しました。ペルソナを念頭に置いてインターネットや出版物でコンセプトをアピールし、デザイン性にこだわった商品としてのブランディングに成功しました。