文・荒井 貴彦(日立総合計画研究所 社会・生活グループ 研究員)

 地方自治体が保有する施設は、高度経済成長期に建設されたものが多いため、間もなく更新時期のピークを迎えるといわれています。一方、地方自治体は、ひっ迫した財政状況にあるため、施設の適正な管理により更新時期を平準化することが求められています。そこで注目されているのが、ライフサイクルコストを考慮した効率的な資産管理方法のひとつであるアセットマネジメントです。

 アセットマネジメントは、不動産などの資産について、最適な時期、規模による投資を行うことによりその価値を高め、利益の最大化を図ることを目的としています。また、単なる資産の管理だけではなく、最適な配置にするための取得、処分なども含んでいます。アセットマネジメントは、おおむね下図のような流れで実施されます。

図表●アセットマネジメントの流れ

アセットマネジメントの流れ

1 基本計画の策定
・全体の目標を設定
2 資産状況の把握
・目標を達成するために必要なデータを入手
・統一した基準により点検を実施し、すべての資産の状況を把握
3 資産の評価・分析
・データベースを使った定量的な分析により資産を評価
・ライフサイクルコストを算出
4 事業計画の策定
・分析結果を基に、個別の施設について修繕、転用、更新、売却などを判断
・重要性の観点から優先順位を決定
5 事業の決定・実施
・財政状況を踏まえ事業化、実施
6 事業評価
・データベースや計画の修正

出典:日立総研

 国土交通省では、2003年4月の「道路構造物の今後の管理・更新等のあり方に関する委員会提言」において、アセットマネジメントを「道路を資産としてとらえ、道路構造物の状態を客観的に把握・評価し、中長期的な資産の状態を予測するとともに、予算的制約の中でいつどのような対策をどこに行うのが最適であるかを考慮して、道路構造物を計画的かつ効率的に管理すること」と定義しています。国や地方自治体では、道路などの土木施設や土地の管理をアセットマネジメント、建物の管理をファシリティマネジメントと呼ぶことが多いようですが、概念として明確に区別されていないのが現状です。

説明責任の観点から、公会計制度改革との整合性が必要に

 多くの自治体では従来、個々の施設について、所管する部署ごとに資産管理の対応を検討していました。このため、自治体全体での最適化が図られないといった課題がありました。アセットマネジメントを導入し、統一した基準で一元的に資産管理ができるようになると、(1)効果的な修繕によるライフサイクルコストの縮減、(2)問題個所の早期発見と適切な対応、(3)住民・利用者のニーズが高い部分への重点投資、(4)不要な施設や使用状況が不適切な施設の売却や転用、などが実現します。

 一般的に、自治体規模が大きくなるほど保有する資産も多く、アセットマネジメントのような手法の導入効果が大きいと考えられます。実際、アセットマネジメントを導入しているのは、東京都や青森県など大規模な自治体が中心です。規模が小さい自治体では、資産の評価方法を含めたシステムの要件定義や施設の点検ができる職員が少ないなどの人的・財政的な制約が影響し、アセットマネジメントを導入することが困難な状況にあるようです。

 今後、アセットマネジメントには、公会計制度改革との整合性を持たせた資産の評価方法を確立することが重要となってきます。資産価値の最大化や業務の効率化を図るだけではなく、公会計システムと連携させることによりバランスシート(貸借対照表)などを作成し、住民へ説明責任を果たすことにも寄与することが期待されているからです。その際には、小規模な自治体でも、導入や維持管理が可能な簡便なシステムを構築して、容易にバランスシートなどが作成できるようにすることが不可欠になると考えられます。