スペックのアピールやインパクトを重視した訴求ではなく、商品が持つ世界観や開発者の苦労や工夫に焦点を当てた物語性の強い広告。

 電気製品や自動車といった消費者向けの広告では、機能やスペックの新規性を訴求するやり方が主流になっています。インパクトのある映像や音楽、幅広い世代に人気がある俳優、印象的な商品名、従来商品と比較した新機能や性能―これらを瞬間的にいかに強く印象づけて記憶に残してもらうかを競っています。

 しかし、ネット時代になり、情報発信のやり方が多様化するにつれて、違った訴求方法が注目されつつあります。その1つが「ナラティブ広告」です。ナラティブとは「物語」や「語り」といった意味。派手なアピールの代わりに、じっくりと共感を誘うような物語性を深く静かに消費者に訴えかけることで商品を記憶にとどめてもらうことを狙った手法です。

効果◆記憶に残りやすい

 ナラティブは、もともと医療の世界で注目されるようになった言葉です。医師が患者と接するに当たり、患者が受診に至った気持ちや期待のストーリーを意識して接することで信頼感を高められるという考え方「ナラティブ・ベイスト・メディスン」(narrative based medicine)が1998年に注目されました。ナラティブ広告も、ストーリーを軸に消費者から共感や信頼感を得ようとする点で似ています。

 ナラティブ広告は、テレビなど従来のメディアでも効果を発揮します。ソフトバンクモバイルが携帯電話の新サービス「ホワイトプラン」を打ち出した時に流したテレビのCMは、若いカップルが「結婚しないか」「そんなこと電話で言うかな」といった他愛のないやり取りがまず続くものです。サービス名と料金は最後の2秒程度映るのみでしたが、同社の加入者数は順調に伸びており、消費者の記憶に残る効果は大きかったとみられています。

 ナラティブ広告がより盛んなのは、放送時間などの制約がないインターネット上の広告です。インターネットにおけるナラティブ広告は、既存メディアに比べて、より特定の顧客層に絞り込んで発信される傾向があります。サイトにたどり着くまでに、消費者は元々強い関心を持ってくれていると考えられます。どんな層の消費者が多くアクセスしてくれるのかを想定し、より長い映像や、長い広告記事を用意して、深い共感を訴えかけようとするわけです。

事例◆化粧品のコンセプトを効果的に伝える

 資生堂の化粧品「マジョリカ マジョルカ」の専用サイトは、絵本風にじっくりと読ませる遊び心があり、有名タレントや効果・効能が中心の宣伝とは一線を画しています。10~20代前半の女性に、独自の世界観を打ち出した美しい映像でブランドコンセプトを伝えることで、息の長いブランド作りを狙っています。