文・岡野 高広(日立総合計画研究所 社会・生活システムグループ 研究員)

 テレワークとは、情報通信技術を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。日本では、1984年にNTTが実施したINS(Information Network System)実験の一環として始まりました。2000年代に入ると、少子高齢社会での労働力確保や、いわゆる「ワーク・ライフ・バランス」(労働時間と生活時間の適切な配分)の実現などのために政府も積極的に推進するようになりました。

 国のIT戦略にテレワークが盛り込まれたのは2003年7月の「e-Japan戦略!)」が最初です。その中で2010年までにテレワーカーを就業者人口の20%にすることを目指す、と数値目標を発表しました。しかし、実際にはテレワーク人口が伸び悩んでいることもあり、2006年1月にIT戦略本部から発表された「IT新改革戦略」にもテレワークの推進が盛り込まれました。さらに2007年5月にはてこ入れ策として、IT戦略本部から「テレワーク人口倍増アクションプラン」が発表されています。

 テレワークには、雇用型と自営型の二種類があり、雇用型はさらに在宅型、モバイル型、施設利用型の三種類に分かれています。在宅型の特徴は、従業員が自宅で仕事を行う働き方で、障害者や出産育児中の人など通勤が困難な場合に、雇用率向上や業務効率の向上などの効果があるといわれています。モバイル型では、営業職・サービス職・SE職など顧客を訪問する業務が多い職種が対象で、顧客への迅速な対応ができるようになるとともに、ワーク・ライフ・バランスの向上などの効果があると考えられています。施設利用型は、サテライトオフィスや立ち寄りオフィスなどを利用して仕事を行う働き方で、時間や場所の自由度が向上し、臨機応変な顧客対応が可能になるなどの効果があると言われています。

 自営型とは、SOHO(Small Office Home Office)などの個人事業主や小規模事業者が情報通信技術を活用してビジネスを行うものです。雇用する企業側の労務管理などの問題などから、遠隔地での就労が難しい雇用型と比べ、自営型の場合は遠隔地での就労も比較的実現しやすいといえます。Iターンの増加が見込まれ、地域活性化に寄与する効果があるとされています。

表●主なテレワークのタイプ
分類 概要 効果
雇用型 在宅型 従業員が自宅で仕事を行う 障害者や出産育児中の人の雇用率向上や業務効率の向上
モバイル型 顧客先・移動中の車内などで仕事を行う(営業職・サービス職・SE職など顧客訪問が多い職種) 顧客への迅速な対応ができるようになるとともに、労働時間と生活時間が適切に配分できるワーク・ライフ・バランスが向上
施設利用型 サテライトオフィスや立ち寄りオフィスなどを利用 時間や場所の自由度が向上し、臨機応変な顧客対応が可能
自営型 SOHOなどの個人事業主や小規模事業者がITを活用して事業を推進 就職や転職を機に生活の基盤を都会から地方に移すUJIターンを増加させ、地域活性化に寄与する
資料:IT戦略本部「テレワーク人口倍増アクションプラン」より日立総研作成

 これらテレワークの導入効果は、見方を変えると、社会、就労者、企業の三者それぞれにとってのメリットとなることが分かります。三者のメリットを整理すると以下のようになります。

 社会にとっては(1)少子高齢社会における労働力の確保、(2)UJIターン増加による地域活性化、(3)交通渋滞の緩和による環境負荷の軽減、(4)ワーク・ライフ・バランス促進、の四つが挙げられます。

 就労者にとっては(1)仕事の生産性や効率性の向上、(2)通勤疲労の減少、(3)在宅時間の増加によるワーク・ライフ・バランスの確立、の三つが挙げられます。

 企業にとっては(1)多様な人材の確保、(2)営業効率の向上と顧客満足度の向上、(3)オフィス・スペースや交通費のコスト削減、(4)災害などに対する危機管理、の四つが挙げられます。

 一方で、既にテレワークを実施している就労者からは(1)仕事と私生活の切り分けが不明確になる、(2)長時間労働になりやすい、(3)テレワークによる成果の評価方法が確立されていない、(4)孤独感などに対する精神面での支援が必要、(5)テレワークについて情報漏えいリスクを感じている企業が多く仕事の発注が少ない、という五つの課題が指摘されています。このような課題に対して、政府も2007年5月の「テレワーク人口倍増アクションプラン」の中で対応策を発表しています。

 「テレワーク人口倍増アクションプラン」では、特筆すべき具体的な推進策として(1)シンンクライアントシステムなどセキュリティを確保したテレワークシステムの検討、(2)雇用保険の適用基準の見直しや在宅勤務ガイドラインの周知と充実、(3)経営者や管理職を対象としたセミナーや講習の開催、(4)障害者、子育て女性、団塊世代高年齢者、UIJターンなどテレワークの利用者別の支援、(5)公務員における短時間勤務制度とテレワークの併用、の五つが挙げられています。

 実際に雇用型のテレワークを導入する場合には、テレワーカーの業務内容を文書で規定したり、情報共有の仕組みを確立するなど、テレワーカーだけでなく周囲の人間も働き方を変える必要があります。テレワークの普及が進むことで、導入した部署や当事者だけでなく、会社全体で日ごろの仕事の進め方を見直すよい機会になることも期待できます。