文・岡野 高広(日立総合計画研究所 社会・生活システムグループ 研究員)

 ローカル・マニフェストとは、地方自治体の首長選挙における事後検証が可能な公約のことです。国政選挙では政党ごとにマニフェストを作成しますが、ローカル・マニフェストでは、都道府県、市町村、政令指定都市などの地方自治体の首長候補者が独自に作成します。

 ローカル・マニフェストと従来の選挙公約との大きな違いは、候補者が考えた当該地域の目指す姿を掲げ、その実現のために「政策目標」、「財源」、「達成期限」について数値目標を含めて具体的に説明していることです。身近なテーマを取り上げているため、住民が関心を持ちやすく、就任後の実績評価がしやすいとされています。

 そもそも、マニフェストは、選挙において政治家や政党が自らの主張をまとめた公約集のことで、英国が発祥です。マニフェストはその後他国にも普及しましたが、米国ではプラットホームと呼ばれるなど国によって呼び方が異なっています。

 日本では、2003年7月の統一地方選挙で当時の北川正恭三重県知事がローカル・マニフェストの導入を提唱し、賛同した知事候補14名のなかで6名が当選したことで、急速に知られるようになりました。

 ローカル・マニフェストの普及は、2つの効果をもたらします。

 1つ目は、より住民主体の自治になることです。2000年の「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(地方分権一括法)」施行以来、「国が決めた政策を執行する機関としての自治体」から、「住民の選択に基づいて地方の実情に合った政策を行う自治体」に向けた改革が進められています。住民に対して首長候補者がローカル・マニフェストを提示し、住民が自分の考えに合った政策を選択することによって、住民の意思をより反映した政策が促進されると期待されています。

 2つ目は、住民が選挙を通じてローカル・マニフェストの履行をチェックすることで、地方政治や地方行政の質が向上することです。ローカル・マニフェストは特別な知識がなくても達成の検証が容易な公約です。従来の選挙では、候補者が目指す将来像や理念を語ることはあっても、実現に必要な具体的政策を有権者が把握し判断することは難しく、在任期間中の業績に対する評価も困難でした。しかし、ローカル・マニフェストを導入すると、公約の実現度合いが明示されるようになるため、現職の首長が次回も当選するためには、自らが掲げたマニフェストの実現に力を尽くすことが必要となります。

 ローカル・マニフェストの「作成」→「立候補と当選」→「実行」→「結果に対しての自己および第三者評価」→「新たなローカル・マニフェストの作成」というサイクルが回ることで、地方政治や地方行政の質が向上することが期待されています。

まだまだ制約が多い選挙期間中のローカル・マニフェスト配布

 公職選挙法の改正により、2007年3月の統一地方選挙から、以前は禁止されていた選挙期間中のローカル・マニフェスト配布が可能になりました(国政選挙では一足先に法改正が行われ、2003年からマニフェスト配布が可能となっていました)。

 ただし、現在も選挙期間中のローカル・マニフェスト配布には、ページ数や配布枚数に制約があります。公職選挙法による規定では、選挙期間中に配布できる文書や図画はA4サイズで1枚のビラ様式に限られ、しかも、指定された枚数までしか配布できません。このため、マニフェストの詳細を説明するには不十分であるといわれています。

 また、通常の政治活動の一環としてWebサイトにローカル・マニフェストを掲載することは可能ですが、選挙期間中には候補者のWebサイトは一切の書き換えが許されていません。例えば、ローカル・マニフェストの内容に関する質問に対して、候補者はWeb上で広く回答を示すことができないわけです。ローカル・マニフェストが有効に生かされるために公職選挙法のさらなる法改正が求められています。