法令順守と訳すが社会常識や倫理も対象に含む。違反すれば株主や市場からの糾弾につながり、企業価値を棄損する。事業存続の必要条件と位置付けられる。

 生損保の保険金未払いに対する行政処分や品質問題による不二家の業務停止など、2006年から2007年に相次いだ企業の不祥事は、「コンプライアンス」の重要性と、それに対する日本企業の認識の甘さを改めて浮き彫りにしました。コンプライアンスは「法令順守」と訳されますが、消費者や取引先、株主の信頼を得るために必要な社会通念、倫理や道徳などの順守も含むのが一般的な定義です。

 2002年にも、雪印乳業や、三菱自動車のコンプライアンス違反などが社会的な問題になりました。両企業のブランド回復は今なお道半ばであり、ひとたび信頼を失うことの深刻さを象徴しています。

◆効果 事業存続に不可欠

 企業の収益確保や業界の成長と引き換えに、多少の法令違反には目をつむり、独自の業界ルールを形成する。日本の企業社会では従来、こうした風土がまん延してきたことは否めません。しかし経済のグローバル化が進み、国内外でしのぎを削るようになった今日、コンプライアンスを守れない企業は、たちまち存在意義を疑われることになります。

 2006年4月に公益通報者保護法が制定され、企業内部からの法令違反通報が促進されるようになった影響もあり、社員などからの通報窓口を整備して、法令違反につながる行為を早期に是正しようとする企業も増えています。2008年に施行が予定される日本版SOX法(金融商品取引法)にも、法令順守を徹底する効果が期待されています。

 ただし、運用上の努力を怠ればこうした制度はたやすく形骸化します。経営層に法令順守の意識が希薄だった事例は論外ですが、現場の風土作りにも努力する必要があります。法令順守が形骸化する典型的なケースとは以下のようなものです。長期にわたって継承されてきた業務プロセスに法令違反が含まれていても社員がそれと気づかずに実行してしまう、部門間の風通しが悪く不都合な情報を外部に出ないよう隠ぺいする―。こうした問題を解決するには、法令に基づいて社員の行動規範などのルールを明確に規定し、かつ違反が隠ぺいされないような仕組みを定着させることが不可欠です。

◆事例 隠ぺいを防ぐ

 2002年に牛肉の産地偽装事件などで社会の糾弾を浴びた日本ハムでは、「情報が隠ぺいされない風土」の醸成に取り組みました。法令違反やそれにつながる行為が発覚した場合には、軽微なものであっても、即時に役員や各事業部の上層部にメールなどで通知し、情報を共有する体制を整えています。また全社から若手社員を集めて行動規範を策定し、各職場で行動規範の勉強会を実施するなどして浸透に努めています。