文・高畑 和弥(日立総合計画研究所 知識情報システムグループ 副主任研究員)

 2007年3月、各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議は、中央省庁のIT調達に関するガイドラインとして「情報システムに係る政府調達の基本指針」を策定しました。この指針は総務省が中心となって取りまとめたもので、IT調達における競争を促進し、コスト低減や透明性の確保を図ることを目的としています。

 指針の最も重要なポイントは、設計・開発の予定価格が5億円以上の大規模システムについて、一括調達ではなく分離調達することを定めた点にあります(図)

 指針では設計・開発工程の調達について、ハードウェアとソフトウェアを分離し、さらにソフトウェアについては「共通基盤システム」(全業務で横断的に使用される機能を持つシステム)と「個別機能システム」(特定業務のみに必要な機能を持つシステム)に分離することを原則としています。運用および保守についても、設計・開発工程の調達から分離して、それぞれ一般競争入札により調達することを定めています。

 このように調達の規模を小さくすることによって、中小企業の参入機会の拡大や、競争促進によるコストの低減が期待できます。加えて、システム要求要件のあいまいさを排除することで(この点については後段で説明)、将来のシステム改修に向けた拡張性を確保できるという利点もあります。

■図 大規模システムは原則として分離調達に
大規模システムは原則として分離調達に
資料:総務省

 もう一つの重要なポイントは、調達計画書の作成・公表を義務化したり、調達仕様書の明確化や契約の明確化などを求めることで、システム要求要件のあいまいさを排除した点です。これまで中央省庁のIT調達ではシステム要求要件にあいまいな部分が多かったため、業務を熟知している既存のベンダーが競争上有利となっていました。指針では、システム要求要件を第三者にも分かりやすく記載することで、特定のベンダーに依存しないIT調達の実現を目指しています。

 これまで中央省庁のIT調達はベンダーに依存する部分が多く、「丸投げ」との批判もありました。「情報システムに係る政府調達の基本指針」に基づくIT調達の推進によって、今後は発注者である中央省庁がより主体的にシステム構築に関与し、ベンダー依存体質から脱却することが期待されています。

 一方で、発注者が負うべきリスクや責任が増大する点にも注意が必要です。例えば、分離調達を進めた場合、異なるベンダーが開発したシステムがうまく連携しないリスク(分割リスク)が発生します。指針は、分割リスクや情報システムの統合の責任を基本的に発注者が負うと定めていることから、発注者はベンダーの責任範囲を明確化し、ベンダーの役割分担に漏れが発生しないようにする必要があります。

 システム要求要件の明確化も発注者の負担を増大させると考えられます。発注者は自らの業務を詳細に分析・検討し、システム要求要件として明確に定義する必要があるからです。今後は、研修の充実などによる職員のITスキル向上や外部人材の登用推進などにより、発注者のシステム要求要件の策定能力を向上させることがますます重要となるでしょう。