図1 QoEはユーザーが感じたサービス品質のこと(イラスト:なかがわみさこ)
図1 QoEはユーザーが感じたサービス品質のこと(イラスト:なかがわみさこ)
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図2 ネットワークのサービス品質(QoS)がQoEに影響する(イラスト:なかがわ みさこ)
図2 ネットワークのサービス品質(QoS)がQoEに影響する(イラスト:なかがわ みさこ)
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 「QoE」(quality of experience)は,IP電話や動画配信などのサービスに対して,ユーザーが感じたサービス品質のこと。例えば「音がぶつぶつ途切れる」,「チャンネルを切り替えても映像がなめらかに表示される」などがある(図1)。QoEの日本語訳はさまざまあるが,電気通信情報学会では「ユーザー体感品質」と訳している。

 エンドユーザーにはまだなじみのないQoEだが,関係者の間では3~4年ほど前から通信サービスの品質を示す用語として使われている。2007年1月には,国際的な標準化組織であるITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)がQoEの定義を「ITU-T P.10/G.100 AppendixI」として定めた。もともと,通信サービスの品質を示す用語としては「QoS」(quality of service)が使われることが多かった。ではQoSとQoEはどう違うのか。

 簡単に言うと,QoSとQoEは品質の対象が異なる。QoSはネットワーク性能を,QoEはユーザーの体感品質をそれぞれ対象とする。QoSは通信事業者やサービス提供者から見たサービス品質の尺度であり,QoEはユーザーから見たサービス品質の尺度と言える。

 QoSとQoEを使い分けるきっかけは,次世代のネットワークについてITUで議論を進めていた過程で生まれた。ITUでは,品質にかかわるネットワーク性能を議論するグループと,ユーザーの体感性能を議論するグループが分かれていた。そこで,用語もQoSとQoEを使い分けるようになった。

 また,IP電話や動画配信などリアルタイム性の必要なアプリケーションが注目されてきたことも,QoSとQoEを使い分けるようになってきた要因と言われている。IPネットワークを使って映像を流すIPTVでは,QoSとしてできるだけ高速にチャンネルを切り替えるためのネットワーク性能が重要となる。一方のQoEでは,それに加えて「常に同じ時間間隔でチャンネルが切り替わるようにしてほしい」というユーザーの要求も考えられる。このように,ネットワークを設計するうえで,QoEは重要な指標となる。

 実際にネットワークを設計するときには,まずQoEを決めることから始める。そして,それに見合うようにパケットの遅延,ゆらぎ,消失などのQoSのパラメータを調整する(図2)。これは,IPネットワークに限ったことではなく,昔からある電話のネットワークと同じやり方だ。電話におけるQoEの尺度としては,評価者が音質を5段階で評価したときの平均値であるMOS(mean opinion score)値がよく使われる。MOS値は総務省がIP電話の電話番号を割り当てる際の品質基準となる「R値」と対応付けられる。通信事業者は決められたR値を満たすようにネットワークを設計することで,サービス品質を担保している。

 ただし,実際の通信時には状況が刻々と変化するため,必ずしも期待どおりのQoEが得られるとは限らない。サービス提供者は今後,実際の通信時にパケットの遅延や消失などQoSの状況からQoEを推定して機器を制御することを検討している。「ユーザーの感覚にできるだけマッチした推定手法を採用し,ユーザーの要求に応じたサービス品質を実現することがサービス提供者の“腕の見せ所”になる」(KDDI)と言いう。

 最近では,QoEの推定に用いるQoSの各種パラメータを端末間でリアルタイムにやりとりする「RTCP-XR」(RTP control protocol extended reports)というプロトコルを採用する動きもでてきた。RTCP-XRは2003年にRFC3611として標準化された。特徴は,ユーザーに最も近い場所にある端末からQoSのパラメータを集められる点である。今後,このプロトコルが多くの端末に搭載されるようになれば,ユーザーの感覚にぴったり合う品質推定が期待できる。これがサービスに反映されると,期待通りのサービス品質が得られるようになる。