文・岡野高広(日立総合計画研究所 社会・生活システムグループ 研究員)

 PASMO(パスモ)は、2007年3月18日から運用を開始した、首都圏の鉄道とバスの共通非接触式ICカード乗車券です。加盟している交通事業者は、現在のパスネットおよびバス共通カードの加盟事業者を中心とした鉄道23社、バス31社ですが、2007年度以降に順次参加が増え、将来的には首都圏を中心とした合計97の交通機関が導入する予定です。サービス開始時からJR東日本が運営している非接触式ICカードのSuicaとの相互利用を可能としており、特に東京周辺の鉄道とバスの大半が1枚のカードで利用できることで利便性が大幅に向上しました。Suicaと同様に電子マネー機能がついており、PASMOだけでなくSuica対応のリーダーライターの設置してある商店などで買い物をすることができます。さらに、PASMOでは電子マネーの残高が2000円を下回ると自動的に3000円を補充するオートチャージ機能をつけることもできます。

 また、乗車券や電子マネーとしてだけでなく、ポイントカードなどとしても利用可能です。既にPASMOを利用したさまざまなサービスが行われており、自治体による住民サービスの提供や民間企業によるサービスにおいても、地域通貨、商店街のポイント、安心見守りサービスのような住民と密接なサービスにも利用され始めています。

世田谷区や目黒区で具体的取組み

 東京都世田谷区は2007年度に高齢者の健康維持や、団塊世代の地域活動への参加促進、地元商店街の振興などに役立てることを目的とする「せたがや生涯現役ポイントシステム制度」を開始しますが、ポイントの管理にPASMOを利用します。2007年12月から試行を開始し、2008年度から本格導入の予定です。

 「せたがや生涯現役ポイントシステム」では2種類のポイント獲得方法を想定しています。一つ目は、65才以上を対象とした「健康いきいきポイント」で、筋力アップ、歯や口の衛生といった健康維持につながる講座を受講すると獲得できます。二つ目は、55才以上を対象とした「地域貢献ポイント」で、世田谷区の町会、商店街、地域団体関係者、企業、大学などの協働組織である「せたがや生涯現役ネットワーク」が取り組むボランティアなどの地域活動に、定年を迎える団塊の世代が参加することで獲得できます。どちらの方法でも、獲得したポイント情報はPASMOに蓄積され、世田谷区の商店街の共通商品券や公共スポーツ施設の入場料などに利用できます。PASMOを地域通貨として利用することによって、区が独自にポイントシステムを構築するよりも導入コストが安く、応用範囲が広いことが利点であるといえます。

 PASMOを商店街活性化策に利用しようとしている自治体もあります。目黒区と目黒区商店街連合会では、区内のすべての商店街でPASMOを導入することにしました。2007年度中のサービス開始を目指しています。目黒区など首都圏では、鉄道などの公共機関を利用する住民が多いことから、住民の間に広くPASMOが普及すると考えられています。そこで、PASMOを使った商店街共通のポイントカードを導入することで、駅を利用している住民を商店街へ誘導するとともに、通常は商店街を利用しない中高年男性などを新たな顧客として呼び込もうと考えています。この取り組みにおいて目黒区は、PASMOのシステム導入費を補助しています。

 児童の見守りサービスも開始されています。東急グループの東急セキュリティでは2007年4月、児童や生徒が学校や塾などの児童関連施設に設置されたカードリーダーにPASMOをタッチすると、保護者の携帯電話や教職員に通過情報が配信される「キッズセキュリティ」サービスを開始しました。

 このように、PASMOは単なる乗車券としてだけでなく、首都圏における社会インフラとして今後もさらに利用範囲が広がっていくことが期待されます。