文・石川 涼(日立総合計画研究所社会システム・イノベーショングループ研究員)

 SWOT分析とは、1960年代に考案された、組織のビジョンや戦略を企画立案する際に利用する現状を分析する手法の一つです。SWOTは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字を取ったものです。

 さまざまな要素をS(強み)・W(弱み)・O(機会)・T(脅威)の四つに分類し、マトリクス表にまとめることにより、問題点が整理されます。その結果、解決策を見つけやすくなるという特徴があります。マトリクスに整理する過程で、関係者が意見を出し合いながら、問題意識を共有化できる点もメリットの一つです。

 SWOT分析には、二つの段階があります。第一段階では、事業や組織におけるS・W・O・Tそれぞれの要素を抽出します。まずS(強み)とW(弱み)には、企業や組織の持つ人材、資金、技術、IT環境、情報、拠点などの内部要因を当てはめて行きます。また、企業や組織を取り巻く経済状況、技術革新、規制、顧客や競合他社との関係、予測されるビジネスチャンスなどの外部環境は、O(機会)とT(脅威)に分類します。

 厳密には仕分けが難しい場合もありますが、原則として内部要因は「その組織内で改善することができるもの」、外部要因は「その企業・組織だけで変えることが不可能なもの」、という目安を設けることが重要です。

 第二段階では、第一段階で抽出した要因を下のような表に当てはめます。例えば、外部要因の「機会」と内部要因の「強み」の二つの要因から"強みを活かす戦略"を導き出すというように、事業や組織の戦略策定や目標設定を行います。

■表 第二段階におけるSWOT分析
第二段階におけるSWOT分析

 この図は民間企業の例を単純化したものですが、SWOT分析はもちろん自治体での活用も可能です。特に地方自治体は、市町村合併、税源委譲、地方交付金・補助金の削減などの"経営課題"に直面しており、これまで以上に経営戦略を持つことが重要となっています。しかも、財政悪化による予算の削減の一方で公共サービスを充実させなければならないなど、難しいかじ取りを迫られています。

 そこで、総合計画策定のような戦略性を持ったビジョンを設定した上で、事業に関して「選択と集中」を実行する必要があります。このような場合に、SWOT分析は有効な手段といえます。それだけでなく、自治体の情報システムの最適化計画のように、複数の部門に関係し、様々な要素を事前に十分考慮する必要のある案件にも応用できます。

 地方自治体の場合には、内部要因の分析には、地域の地理的条件や自然条件、文化、風土、歴史などについて把握しておくことが前提条件となります。外部環境の場合は、周辺地域の経済・産業・社会構造や中央政府の政策動向、民間企業の大型投資プロジェクトの動向を見ることになります。

 その上で、外部環境分析においては、他地域との関係において強みを発揮できる分野を「機会」、他地域が力を発揮し、自地域に対してマイナスの影響を与える分野を「脅威」ととらえます。一方、内部要因分析においては、他地域にアピールできるものや、地域住民が自信を持てるものなど、他地域と比べて比較優位性のあるものを「強み」、逆に、比較劣位性のあるものを「弱み」としてとらえます。

 例えば、大都市に隣接した観光地であれば、海、山、温泉などの観光資源は「強み」、ITなどの知識産業が未発達でそうした業務に適した人材の雇用の場が少ないことは「弱み」、都市部とのアクセスが良いことは「機会」、近隣でのアミューズメントパークの建設が「脅威」というように当てはめていきます。

 地方自治体の中には、既にSWOT分析を導入しているところもあります。例えば、大阪府和泉市や愛知県瀬戸市では、総合計画の策定にSWOT分析を活用しています。

 和泉市を例に挙げると、2006年内に策定する新しい総合計画では、市全体のSWOT分析からは総合計画の基本構想(市の将来像)を、部のSWOT分析からは基本計画(分野別の展望、目標)を導き出そうとしています。まず、各課の事業・業務についてSWOT分析を実施し、それを各部で集約して部のSWOT分析を行います。その分析結果に市長の意向や市民意識調査などを反映して、市全体のSWOT分析としてまとめます。その上で、各部のSWOT分析を修正するという作業を行うわけです。