文・石井 恭子(日立総合計画研究所社会システム・イノベーショングループ 主任研究員)

 2006年7月26日、小泉内閣のIT戦略本部は「重点計画─2006」を発表しました。2006年1月に策定した「IT新改革戦略」の下での最初の重点計画です。重点計画とは、政府が高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)に基づいて、取り組みの基本的な方針と施策を定めたものです。重点計画は、IT戦略を着実に遂行するために、誰が何をいつまでに実施すればよいかを記した施策集であると言えます(重点計画、IT新改革戦略は、IT戦略本部のWebサイトからPDFファイルでダウンロードできる)。

 IT戦略本部はこれまで、2001年以降「e-Japan戦略」や「e-Japan戦略II」の下で、4つの重点計画を定めてきました。また、重点計画の取り組みを加速するために、いくつかのプログラムや政策パッケージも発表しています。

 重点計画─2006は、ITの構造改革力を追求することで「いつでも、どこでも、誰でも」使えるユビキタスなネットワーク社会を実現し、最先端のIT国家であり続けることを目指しています。IT戦略本部のリーダーシップの下で、官民が互いに連携しながら、目標の達成を目指していくことになります。

 重点計画の各論は、IT新改革戦略と同じ章立てとなっており、合計15の分野が3つの政策群に分かれています。電子行政分野は、1つ目の政策群である「ITの構造改革力の追求」の重点7分野の一つに含まれます。

 各分野は、(1)取り組みの背景や方針などをまとめた「基本的な考え方」、(2)2010年度までに達成すべき目標、(3)その目標達成に向けて2006年度を中心に実施する「具体的施策」、の3つで構成されます。

 例えば電子行政分野では、「基本的な考え方」の中で利用状況が芳しくないオンライン申請の現状を取り上げています。そこで、「2010年度までに利用率を50%にして利便性を実感できるようにする」という目標を掲げ、そのために登記、国税、社会保険・労働保険の手続きについては2006年度中にインセンティブの導入を検討する、といった「具体的施策」を採ることになります。

 重点計画─2006には3つの特徴があります。1つ目は、重点計画として採用する施策の条件を明確にしたことです。重点計画の施策は、各分野の「基本的な考え方」に沿ったものであることはもちろん、次の3要件を満たすことが必要になりました。

  1. 重点的な取り組みが求められるもの
  2. IT新改革戦略の基本理念に基づくもの
  3. PDCA(Plan Do Check Act)サイクルを確立するために目指す成果や達成期限の定量化/可視化が可能なもの

 このような条件を設けることで選択と集中が進み、取り組みがこれまで以上に重点的となることが期待できます。また、達成すべき目標と個々の施策との関係が明確になるという効果もあります。

 2つ目の特徴は、これまでの重点計画よりも踏み込んだ内容の施策が多いことです。電子行政で言えば、先述のインセンティブ施策は利用率アップの決め手として期待できます。こうした具体的な施策が多くなった背景として、日本がITの利用環境を整備する段階から利活用を促進する段階になっていることや、単に推進や促進をうたうだけでは、目標の達成が困難であることが考えられます。

 3つ目の特徴は、PDCAサイクルを確立するために評価体制を強化したことです。2003年にIT戦略本部の下に設けられた評価専門調査会は、これまで一貫して、(1)たゆまぬ前進のための仕組みとしてPDCAサイクルを確立すること、(2)利用者が実際にIT戦略の恩恵を感じるようになること、が重要であると主張してきました。しかし、IT戦略の対象分野は多岐にわたっているため、評価結果を実効性のあるAction(改善)につなげるには、評価体制の強化が不可欠でした。

 今回新たに発足した「IT新改革戦略評価専門調査会」は、これまでと比べて委員を10人に増員しました(解散した評価専門調査会は委員7人)。また、取り組みが遅れている医療と電子行政の二分野については、調査会の下にそれぞれの分科会である「医療評価委員会」と「電子政府評価委員会」を設けて、強力に後押しをする体制にしました。

■図 IT新改革戦略と評価体制
IT新改革戦略と評価体制
出典:内閣官房IT担当室「IT新改革戦略と評価体制のあり方」

 新しい調査会では、主に(1)PDCAサイクルを確実にまわすための機動的な軌道修正の仕組み、(2)利用者の感じる恩恵の客観的な把握/可視化のための指標、を具体的に検討することになります。

 重点計画─2006が着実に遂行されることにより、IT新改革戦略が目指す、いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現も夢ではないでしょう。