文・高畑和弥(日立総合計画研究所電子政府プロジェクト・リーダー)

 e-Japan戦略などの推進に伴って、ここ数年で日本の政府機関や地方自治体のIT投資は大幅に増加しました。一方で、その費用対効果や投資判断基準は明確にされておらず、IT投資を管理する手法の確立が求められています。日本では、経済産業省がEA構築の一環としてIT投資管理モデルの開発に向けた研究を行っていますが、全府省的な取り組みには至っていません。

 電子政府の分野で先行する米国では、会計検査院(GAO:General Accounting Office)が提唱したIT投資プロセス管理手法ITIM(Information Technology Investment Management:IT投資管理)が政府に採用されています。

 米国では1996年にクリンガー・コーエン法が制定され、すべての連邦政府機関はIT投資の効果やリスクに関する分析・評価を行うことを義務付けられました。これを受けて、GAOは、2000年5月に報告書を発表し、IT投資プロセス(IT投資に関する選定・管理運用・評価のプロセス)を総合的に管理するための手法としてITIMを提唱しました。その後、連邦政府機関でITIMを実際に適用した結果を反映して、2004年3月には改訂版(バージョン1.1)が発表されています。

■図 ITIMにおける5つの成熟度ステージ
ITIMにおける5つの成熟度ステージ
資料:GAO資料より日立総研作成

 ITIMは組織のIT投資の管理における成熟度として5つのステージ(上図)を定義しています。各ステージでは組織が満たすべき基準が定められており、ITIMを活用する組織はこれらの基準に照らし合わせて、自らのIT投資プロセスを評価・分析します。例えば、ステージ2に分類されるためには、

  1. IT投資委員会などが設置されていること
  2. IT投資と組織のビジネス上のニーズが合致していること
  3. IT投資の選定に関して、事前に決められた手法が存在すること
  4. 事前に決められた基準によってIT投資が監督されること
  5. IT投資を評価するために必要な情報が入手可能であること
という5つの重要なIT投資プロセスを有している必要があります。

 ITIMの成熟度ステージでは、IT投資の管理がプロジェクトごとに場当たり的に行われているのではなく、組織全体の戦略に基づいて計画されているほど上位のステージに位置付けられます。各組織は、ITIMのフレームワークが定めている指針に基づいてIT投資プロセスを改善することで、成熟度を向上することができます。ただし、ITIMはあくまで成熟度の評価を主体とした手法ですので、IT投資プロセスを改善するためには、プロジェクト管理の強化、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)によるシステムの標準化などの取り組みを並行して進める必要があります。

 米国では、IT投資を管理する手法を確立し、IT投資の費用対効果を向上させようとする政府横断的な取り組みが進んでいます。ITIM以外にも、米国総務庁(GSA)による「IT Capital Planning & IT Investment Guide(2003年)」、CIO Councilによる「Smart Practices in Capital Planning(2000年)」など、IT投資に関するガイドラインが数多く発表されています。

 日本の政府機関や地方自治体においても、IT投資の費用対効果を向上させることが強く求められてきています。ITIMなどの取り組みは大いに参考にすべきではないでしょうか。