社員が大規模な業務改革といった新しい変化に対応しやすくするためのマネジメント手法。多くの人は急速に環境が変化することを好まないため、何らかの改革を推進しようとすると必ず抵抗が生じる。業務改革を成功させるには、経営陣などが率先して、改革の狙いや目標などを社員に浸透させることが、不可欠になっている。

 「変化を恐れず、変化とともに行動する」——。

 ここ数年、多くの経営者は異口同音にこう言います。めまぐるしい環境変化に伴って経営のかじ取りは困難を極め、誰もが適切な経営資源の配分や組織のあり方を模索しています。しかも、意思決定には経営環境の変化以上のスピードが求められています。

 ところが変化の波を受けて俊敏に対応できる社員はごくわずか。多くの社員は慣れ親しんだ仕事の進め方を簡単に捨てません。そのため、改革と名の付くプロジェクトには、社内の抵抗がつきまといます。

 そこで「チェンジ・マネジメント」の出番です。これは変化を円滑に乗り越える方法論です。経営トップ自らが社員に新しい改革のあり方を示し、1人ひとりの社員はどのように意識や仕事のやり方を変えるべきかを繰り返し伝えることで、変化への抵抗を少なくするのです。

◆背景
業務改革に伴う文化摩擦を解消

 チェンジ・マネジメントは、米国でBPR(業務プロセスの再構築)を成功に導く手法として誕生しました。一大ブームになったBPRですが、失敗する企業も少なくありませんでした。そして、その多くは社内の様々な抵抗を抑えられなかった、つまりチェンジ・マネジメントの失敗だったといわれます。

 大規模な社内改革は、危機意識の薄い社員に、現状を打破する必要性を意識させなければ実現しません。ただし、改革のビジョンが明確でなかったり、経営トップのコミットメント(関わり)が薄い場合には社員の心は動きません。保守的な社風を持つ企業や過去に組織改革に失敗した経験を持つ場合は、抵抗が大きくなります。

◆事例
社内コミュニケーションを強化

 チェンジ・マネジメントで成功を収めた企業の例として、日産自動車が挙げられます。カルロス・ゴーン社長のもとで、大規模なリストラやコスト削減によって業績を回復する「リバイバルプラン」を発表。その実現のために部門の壁を超えた専任チームで論議し、旧来の慣行やルールをゼロベースで見直していきました。

 その際にゴーン社長は、全社員向けの集まりやイントラネット、マスメディアなど様々な機会をとらえて「日産はなぜ変わるべきなのか」「どう変わるのか」といったメッセージを社内外に投げかけました。ゴーン社長が打ち出す明確なビジョンと改革の方向性を理解した多くの社員は、大きな変化を前にして自分は何をすべきかを把握しやすくなり、変化を受け入れる意識改革が進んだのです。

 このほかにもERP(統合業務)パッケージソフトやSCM(サプライチェーン・マネジメント)システムの導入に伴う大規模な業務改革を円滑に進めるために、チェンジ・マネジメントを採り入れる企業は数多くあります。

三田 真美 mmita@nikkeibp.co.jp